コラム

「ケネディの匂い」がしないバイデン大統領

2021年02月23日(火)18時00分

写真は1961年5月に撮影されたケネディ大統領とジャクリーン夫人 Abbie Rowe/The White House/REUTERS

<国難にあたって沈思黙考するリーダー像は、今や過去のものになっているのかもしれない>

先日、あるウェビナーの席で興味深い質問を受けました。「歴代の民主党政治家はみんなケネディの匂いがするのですが、バイデン大統領にはそれがありません」としたうえで、その理由をたずねられたのです。その瞬間、確かに「なるほど、バイデンにはケネディの匂いがしない」という点で、私もそう思ったのですが、問題はその理由です。

その時、咄嗟に答えた内容に加えて、その後に思いついたことも加えて考えてみたいと思います。

その前に確認ですが、20世紀後半から現在に至るまで、民主党の主要な政治家にはどこか「ケネディの匂い」がありました。例えば、大統領になった人物では、ビル・クリントン、バラク・オバマなどには、そんな雰囲気がありました。選挙に負けて大統領になれなかった人物でも、例えばデュカキスとかゴアにも、それはあったように思います。ヒラリー・クリントンにしても、どこかケネディの民主党という雰囲気は持っています。

ですが、確かにバイデン大統領にはそれがありません。考えてみれば、アメリカ史上でケネディとバイデンというのは、カトリックの大統領ということでは、この2人だけという共通点があります。ですが、確かにバイデンにはケネディの民主党という匂いはしません。

バイデン独自のキャラ

1つは地域性だと思います。ケネディ的なるものの背景には、アメリカの北東部、特にその北に位置するニューイングランドという地域性があります。例えばデュカキス、ゴア、オバマは、みんなハーバードの法科大学院の出身ですし、クリントン夫妻も法科大学院はイエールです。

これに対して、バイデン大統領は生まれがペンシルベニア州のスクラントンで、幼い時期にデラウェアに転居。今もここがベースです。大学もデラウェア大学とシラキュースの法科大学院ですから、ニューイングランドの地域性よりは西になります。

2つ目は、キャラクターということだと思います。特に20世紀後半の民主党政治家は皆、ケネディのカリスマをどこかで真似ている印象がありました。地域的には接点のない(コネチカットの潜水艦基地勤務だったのは事実ですが)カーターにしても、ケネディと世代が近かったこともあり、どこか比較されていたのは事実です。

ですが、バイデン大統領の場合は、苦労人だということ、家庭内の悲劇を背負っていること、そのくせ人懐っこい憎めない人柄ということなどから、「バイデンというキャラ」が立っているわけです。嫌いな人には「失言大魔王」のように思われていることも含めて、ケネディとイメージ的に重なるところがない独自のキャラクターなのだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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