コラム

トランプを自滅させるかもしれない、テレビ討論会での3つの失言

2020年10月01日(木)16時00分

2つ目は、大統領選で郵送投票の結果集められた投票用紙を時間をかけて開票する州において、開票期間を「冷静に待てるか?」という司会の質問に対して「大勢で押しかけて(不正がないか)監視する」と述べた部分です。以前から郵送投票は不正の温床だと批判してきた大統領ですが、これでは一部の選管に対して圧力をかけるよう「そそのかし」ていると言われても仕方がありません。

こうした一種の「極右への連帯」や「暴力の挑発」というのは、コア支持者には受けるでしょうが、俗に言う「郊外の女性票」獲得合戦という観点からはマイナスとなる可能性が大きいと思います。「口からでまかせ」が持ち味であるにしても、何とも粗っぽい言動という印象を与えました。

3つ目は、バイデン氏の家族について言及した中で、麻薬中毒患者を罵倒したことです。就任後のトランプ大統領は麻薬取引など「微罪にもかかわらず長期収監されている」服役囚に対して、その釈放運動を支援してきました。犯罪者やその家族という汚名に苦しむ人の中には、その点において大統領の姿勢に光明を感じていた人もあるのですが、今回の発言はその努力を水の泡とする可能性があると思われます。

不規則発言で相手を「ヤジり倒す」というのは、前回2016年にヒラリー・クリントン候補とのテレビ討論でも多用された作戦です。ですが、今回は与えた印象がかなり違いました。前回の「ヒラリーへの罵倒」は、あまりに異例なために、相手を怒らせて感情的にさせるとか、視聴者の一部には目新しさを感じさせるなど、それなりの効果はあったのかもしれません。トランプ本人の態度からも「ダメ元でハチャメチャに行ってみよう」的な開き直りの感覚が見て取れました。

トランプが感じさせた焦り

ですが、今回の「ノンストップ・ヤジ将軍」というのは、全体的に焦りの色が見え、どちらかと言えば「弱さ」を感じさせるものでした。必死になってヤジを繰り返す姿勢には、脱税疑惑をはじめ、ストレートに答えたくない話題から逃げようという姿勢が感じられたからです。2016年と同様に、バイデン候補を感情的に追い詰めようという計算が感じられる箇所もありましたが、これに対してバイデン候補は終始冷静でした。

いずれにしても、既に郵送投票が始まっている州もあることから、今回のテレビ討論ではこの「第1回」がとても重要とされています。分断が進むアメリカ社会を反映して、討論の勝敗を明言するメディアは少ないのですが、少なくとも今回の討論を見て「新たにトランプ支持に回る」中道票というのは、極めて限られるのではと思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、銀行に影響する予算措置巡りイタリアを批判

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏

ワールド

25年度補正予算が成立=参院本会議
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story