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アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サンダルに脚光

2025年07月06日(日)07時59分

イタリアの高級ファッションブランド、プラダがインドの伝統的なサンダル「コルハプリ」(ヒンドゥー語ではチャッパル)のデザインを無断で使用したと激しい批判を浴びた。写真はコルハプリを試す女性。7月1日、ニューデリーで撮影(2025年 ロイター/Bhawika Chhabra)

Dhwani Pandya Arpan Chaturvedi Elisa Anzolin

[ムンバイ/ミラノ 2日 ロイター] - イタリアの高級ファッションブランド、プラダがインドの伝統的なサンダル「コルハプリ」(ヒンドゥー語ではチャッパル)のデザインを無断で使用したと激しい批判を浴びた。一方、インドの靴販売事業者や職人らは注目を集めているチャンスを生かしてコルハプリの需要を拡大し、長らく苦境に置かれてきた12世紀からの工芸技術を復活させることを期待している。

プラダが「炎上」したのは、イタリア北部ミラノで開催されたファッションショーで、デザインの由来を示さずにコルハプリそっくりのサンダルを披露したためだ。その画像が出回ると、コルハプリ職人らが猛反発し、サンダルはコルハプリに着想を得たことをプラダも認めざるを得なくなった。

電子商取引(EC)サイトのショップコップによるインスタグラムの投稿には、デザイン要素について「プラダはゼロ、コルハプリが全て」と記された。創業者のラフル・パラス・カンブレ氏がプラダへの公開書簡で行った「(インドの)伝統にどっぷり染まっている」との指摘は、交流サイトで3万6000回も共有された。

ただ、カンブレ氏は「この論争はコルハプリの販売促進手段になると分かった」と語る。同氏が地元職人から仕入れたコルハプリの売上高は3日間で5万ルピー(584ドル)と平均の5倍に達した。

ここ数日、交流サイトには批判意見や皮肉があふれ、政治家や職人、商業団体などはインドの歴史的遺産に相応の評価を与えるよう要求している。

プラダは今後、インドの職人らと会合を開く予定だ。プラダは1日、ロイターに宛てた声明で、サンダルの商業販売をする場合には地元の製造業者と協力してインドで生産するつもりだと述べた。

<死につつある工芸技術>

インドの高級品市場はまだ規模が小さく、同国内のプラダの直営店は皆無だ。同社の製品は通常ならば超富裕層向けで、例えば男性用サンダルの最低価格は844ドル。これに対してコルハプリは最も安い製品ならば12ドルで買える。

しかしプラダのブランドと、約7000人の職人がつくるコルハプリを結びつけることで商機が提供されている。

フェイスブックとインスタグラムに掲載された最新の広告の1つには「手作りのコルハプリがプラダのランウェイを闊歩(かっぽ)。限定在庫。世界的な注目。世界が賞賛する一品を手に入れよう」との文句が並んだ。

電子商取引サイトのニイラは「伝統に根ざす」コルハプリを最大50%オフで販売。創業者のニシャント・ラウト氏によると、ミラノのプラダの店頭に展示されている物に似た商品の売り上げが3倍になったという。

ラウト氏は「インドのコルハプリのブランド力が(世界的な人気サンダルブランドの)ビルケンシュトックぐらい大きくなれないはずはない」と言い切った。

インド政府は2021年、コルハプリの年間輸出額が10億ドルに達してもおかしくないとの見通しを示した。だが、業界は消費者がよりおしゃれで高級な商品に向かう傾向が強まる中で、厳しい状況に見舞われ続けてきた。コルハプリの名前の由来になった都市があるマハラシュトラ州の主要経済団体トップを務めるラリト・ガンジー氏からは「死につつある工芸技術」という言葉まで飛び出した。

それでもプラダが引き起こした論争が、コルハプリに新たな息吹を与えつつある。ガンジー氏は現在、プラダと共同ブランドによる限定版サンダルの開発を協議している。

コルハプリ職人のアショク・ドイプホデさん(50)も「プラダ効果」に望みをつなぐ1人だ。これまで1日9時間も縫製作業に勤しんでも販売価格は1足わずか400ルピー(5ドル)だったが、プラダの効果で単価が上昇することに期待を込める。

ドイプホデさんは「プラダのような大企業が参入すれば、私のような熟練工は良い値付けを得られるようになる」と語った。

ロイター
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