コラム

「コロナ後の世界」に立ちはだかる2つの難題

2020年05月12日(火)17時40分

中国は経済の再起動に向けて動き出しているが…… Thomas Peter-REUTERS

<巨大な「真空地帯」となる湖北省以外の中国の鎖国状態、そしてアフリカなど南半球の感染拡大とどう向き合うか――日本には国際協調へのイニチアチブが求められる>

感染拡大の際に実行された「ロックダウン」や「非常事態宣言」からの「出口戦略」を世界の各国が模索し始めています。日本の場合もそうですが、当面は経済の再起動を注意深く進めることになり、その先まで見通した戦略というのはなかなか考えられない状態だと思います。

ですが、仮にある程度「国内経済」を再起動できたとしたら、その次は国際情勢、つまり「コロナ後の世界」に適応した戦略を考えていかなくてはなりません。もちろん、早期に治療薬や予防ワクチンが確立するようなら、「V字型」とまでは行かなくても、「U字型」の回復という可能性も見えてくるでしょう。

けれども、そうではなく、とりあえず2020年前半のパンデミックは収束した、だが、治療薬は完全ではなく、予防ワクチンは未開発という状況が続くとしたら、どうでしょう? その場合、世界の経済や外交ということでは、2つの問題に向き合って行く必要があると考えられます。

1つ目の問題は「中国という巨大なコロナ真空地帯」の問題です。この中国の「真空」というのは、湖北省でパンデミック再発の危険があるという意味ではありません。情報統制が強すぎてブラックボックス化するということでもありません。

中国が「免疫を持たない集団」に

今回のパンデミックに際して、湖北省など感染地域以外の約10億人の人口、例えば北京や上海などを含む中国全土は「早すぎる、そして完璧すぎるロックダウン」を実現してしまっています。そのために、早期の経済再起動ができているのは事実だと思います。

ですが、同時にこの「湖北省以外の中国」は、地球最大の「コロナ陰性+コロナ抗原・抗体陰性」という「感染への免疫が希薄な集団」として残ってしまうことになります(あくまで、抗体が何らかの免疫力を持つという仮説が前提ですが)。と言うことは、「被害が少ないので経済活動を牽引できる」はずの中国が「ワクチン完成までほぼ完全な鎖国を継続」しなくてはならないことになります。これは世界経済にとって、また日本経済にとっても深刻な問題です。

もちろん、中国で湖北省以外でも感染が拡大して、欧米並みの感染者が出た方が「良かった」とは言えません。少なくとも湖北省で起きたことに衝撃を受けた中国政府として、厳しいロックダウンと湖北省封鎖によって感染拡大を防止したのは正しい判断であるし、その背後には日欧米の専門家の助言も、WHOのサポートもあったと思います。

そうなのですが、ほぼ全く感染していない10億人が、ワクチン待ちの期間は鎖国を継続しなくてはならないとしたら、これは大変なことです。しかしながら、いち早く再起動を進めつつある中国経済の存在は、日欧米にとっても重要です。相互のコミュニケーションを改善して、モノの行き来や、カネの行き来に良い知恵を出していくべきでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story