コラム

20年を経て見直しの時を迎えた日本の司法制度改革

2019年05月17日(金)18時00分

一つは、政治の対立と、現在進行している司法への不信問題がシンクロしていないという問題があります。例えば、現在の現役世代は21世紀の現代の価値観に基づいて、一人一人の住民が権利を保障され、安全を確保され、万が一の場合には被害を正当に補償されることを望んでいます。

ですが、いわゆる保守という政治の立場は、高齢者主導の財界や官界を代表した「昭和的なヒエラエルキーによる秩序」から自由ではなく、現役世代の価値観や、確立してきた一人一人の権利意識への対応は遅れがちです。

一方で、いわゆるリベラルという政治の立場の場合は、国家や司法あるいは警察の権力に被害を受けた記憶ばかりが残っていて、例えば加害者の権利を擁護することでバランスを取れば人権が確保されるし、そのことが現役世代の生活の安全や安心感より優先するという、これまた21世紀の現在とは時間的にズレた感覚を持っています。

それ以前の問題として、技術革新や国境を超えた人の動きが加速する時代では、民事係争に一審で2年近くかかるとか、法改正論議に古い左右のイデオロギーが持ち込まれるというような状況では、社会における問題解決のツールとして、法律と司法が使えなくなってくる可能性があるわけです。

この点を考えると、実定法と判例の積み重ねで司法が信頼を維持するという現在の仕組みは根本から見直さないといけないのではないかと思うのです。

結果を伴わなかった改革

原則としては、古臭い左右対立ではなく、実務的でグローバルな常識との接続感もある現役世代による「現代日本の価値観=コモンセンス」というものを確立して、その価値観を、司法判断の上位に置くようにするということが必要です。

具体的には、より裁判員制度を充実させて、上級審にも拡大し、また民事訴訟にも導入すべきだと思います。さらに判事や検事について、形式化した国民審査制度ではなく、上級の司法官は常に世論によって監視され、直接もしくは間接的に民意によって任免されるような制度を導入すべきだと思います。

立法権については、法案の審議が不毛なイデオロギー対立や、与野党の政争の道具にされることのないように、実務的な法案審議の場合には、党議拘束を解除して、それぞれの議員が自分を選んだ有権者の声を代弁する形で賛否を決めるようにする必要があります。例えば2009年に審議された臓器移植法案では、党議拘束を外すことでスムーズな意思決定ができた経緯があります。

いずれにしても1999年にスタートした司法改革は、結果を伴わなかったという反省が必要であり、新たな問題への対応の遅れを取り戻すためにも、根本的な軌道修正が必要な時期に来ていると考えます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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