コラム

平成時代は衰退の30年ではない

2018年12月27日(木)15時15分

バブル崩壊、金融危機、相次ぐ災害……平成は苦難の時代ではあった praetorianphoto/iStock.

<バブル崩壊で始まった平成を「衰退の時代」と捉えるムードがあるが、実際には日本の今日の衰退は昭和に端を発している>

2019年になれば平成は残り4カ月となるため、すでに「平成30年間の回顧」というムードが見られます。多くの場合、「平成というのは衰退の時代」だという暗黙の合意を前提にしており、改元という「ガラガラポン」で時代のムードを一新したいという期待感を伴っているようです。

一方で、それでは今上天皇が「衰退期の天皇」として歴史に残るわけで、それは余りにも失礼という考え方もできます。例えば内閣府参与で安倍総理のブレーンである谷口智彦氏などは、「今上天皇は国の『ヒーラー・イン・チーフ』つまり『最高癒し責任者』」としての責務を全うされた、という評価をしています。

つまり時代は衰退期ではあったが、その痛みを必死になって癒し続けた存在として今上天皇は歴史に残る、と言うのですが、そういう見方であれば「失礼」にはならないかもしれません。

ですが、本当に「平成=衰退の時代」なのかと言うと、それは違うという見方もできます。

例えば、バブル崩壊について言えば、確かに東京株式市場の株価は1989年、つまり平成元年12月の大納会(年内最後の取引)を最高値として、以降は一気に下げていきました。と言うことは、平成になって11カ月目に崩壊が始まったという見方が普通です。

その後の長い経済の低迷は、この平成の元年に始まったバブル崩壊が原因で、そのバブルが崩壊したことで、金融危機が広がり全産業が不況に陥った、一般的にはそう理解されています。

そうした時系列で考えると、いかにも「平成=衰退期」というイメージになりますが、日本経済が不調に陥った原因は、平成に入ってからではなく、その前の昭和時代にあったという見方が必要だと思います。

例えば、日本のコンピュータ産業における技術の遅れという問題を考えてみます。この問題では、例えば1964年における松下電器(パナソニック)における大型コンピュータ事業からの撤退という出来事があります。この時は、創業者の松下幸之助が「総合メーカーが片手間にやるよりも、2~3の専門メーカーがやるほうが電算機事業の発展のためにもよい」と判断したと言われています。

しかし実際は、どの企業もコンピュータの本当の価値をわかっていたわけではなく、開発を進めていった企業もやがて迷走を始めたわけです。迷走ということでは、1970年代初頭の時点では、コンピュータのCPUというアイディアは、カシオやビジコンといった日本企業が世界の最先端だったのですが、そのノウハウが結局はインテルに流れてしまうということもありました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story