コラム

平成時代は衰退の30年ではない

2018年12月27日(木)15時15分

またソフトの面では、1981年にIHI(石川島播磨重工業)からコンピュータ部門の技術者が集団で「脱藩」して「コスモ・エイティ」というベンチャーを立ち上げたことがありました。このコスモ・エイティを創業したグループは、立派な仕事を残して歴史に名をとどめています。ですが、一方でこれを契機として「コンピュータ技術者は特殊な人材だから、年功序列制度の中で幹部候補から外そう」という意味不明なトレンドが拡大し、現在日本だけに残っている「IT技術者の社会的地位の低さ」という大問題につながったとも言えます。

結果的に、そのような迷走の結果として1980年代末には、日本の技術力は世界の最先端からかなり遅れてしまったのです。例えば1987年にはNTTが上場して、株がブームになり、まさに大きくバブルを膨張させましたが、そもそも固定地上電話のインフラがそこまで評価されて巨額な資金を集めながら、インターネット前夜の世界的な時代状況に対応できなかったのは、その時点で衰退が始まっていたことを意味します。

平成期は自然災害に見舞われ、その対応に追われた苦しい時代、そんなイメージもあります。ですが、これも単純すぎる見方です。1995年(平成7年)の阪神淡路大震災は、地震そのものは自然現象ですが、発生した災害は人災です。というのは耐火・耐震性能の低い建築や、簡単に崩壊した新幹線や地下鉄の構造物など、昭和期に作られたインフラの脆弱性を暴露した事件だったからです。2011年(平成23年)の東日本大震災も同じで、東北を中心とした過疎・高齢化の恐ろしい現実を暴き出した点で、まさに昭和以来のツケを払わされた出来事でした。

平成は多くの苦難に見舞われた時代でした。ですが、その問題の多くは平成に始まって平成に終わるといった単純な問題ではありません。問題の根は昭和時代に遡るものが多く、その克服の多くもまた、平成の次の時代に持ち越されていくと思われます。そう考えると、改元で時代の気分を一新できるというのはやや単純すぎる見方でしょう。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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