コラム

高市早苗新首相と田原総一朗氏との浅からぬ因縁

2025年10月29日(水)15時30分

高市新内閣への支持率は各社調査で70%前後とかなり高い Jia Haocheng/POOL/REUTERS

<窮地に立たされている田原氏に、首相の方から救いの手を差し伸べてはどうか>

評論家の田原総一朗氏が窮地に立たされています。テレビの討論番組の中で野党側の出演者に対して高市首相への批判を促す際に、現代の基準では許されない言葉遣いをしてしまったのが原因で、該当する番組は打ち切りになってしまいました。

この問題ですが、田原氏の失言そのものを切り取れば、確かに弁解の余地はないように見えます。また、高市首相の熱心な支持者や官邸周囲からすれば、首相への嫌がらせのようにも聞こえるかもしれません。そうではあるのですが、高市首相と田原氏の関係、あるいは因縁というものは、そんな簡単なものではないと思います。


というのは、高市氏が政界入りして、最終的には首相として政権を担当するに至った中で、田原総一朗氏との出会いというのは、無視できない要素だからです。あまりにも昔の話になりますが、1989年頃、高市氏が米連邦議会での職務を終えて帰国した後、他でもない田原氏の「朝生」こと『朝まで生テレビ』に数回出演したことがありました。

当時の高市氏はどちらかといえば、中道的な立ち位置であり、アメリカ帰りのキラキラしたイメージとともに、女性の活躍する社会を目指した歯切れのよい言論を発していました。高市氏は、他の複数の情報番組にも出演していたようですが、何と言っても当時の「朝生」に出演したことが知名度を拡大することとなり、政界入りへの道を開いたのだと思います。

政界入りした以降も、議員として、あるいは閣僚として高市氏は断続的に「朝生」への出演が続いたと思います。その一方で、政治的立場ということでは田原氏との距離は開いていきました。

党内保守へと立ち位置を変化させていった高市氏

田原氏は政界に幅広い人脈を持ち、自身は戦中派として反戦と国際協調を軸にしています。ただ、21世紀に入ってからは時代が動く中での視聴者の変化を受けて、イデオロギーよりも、リアリズムにやや軸足を移しています。特に第二次安倍政権の時代には、是々非々で政権へのアドバイスをしたりもしていました。

一方で高市氏の方はもう少し振幅の激しい歩みをしてきました。当初は「日本では落選すると支持者に対して候補が土下座をするが、自分は絶対やりたくない」という発言にあったように、封建主義やドブ板選挙に対抗するアメリカ帰りの近代主義者のように振る舞っていました。また、政界の集合離散の中で様々な政党を渡り歩いてもいます。

ですが、後年は選択式夫婦別姓制度に猛反対するなど、自他ともに認める党内保守として、田原氏とはまた別の意味で立ち位置を変化させてきています。

田原氏としては、戦中派としての経験から来る強い思いを持っていることから、そんな高市氏の「太平洋戦争はセキュリティー確保が動機」であるという発言や、一時は通称使用を実践しつつ夫婦別姓に反対していた姿勢には、かなり厳しい批判をしていました。今回の失言は、その延長で発生したものと言えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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