コラム

国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の「保守性」

2025年10月22日(水)14時00分

日本社会と企業は変革・リスクを忌避してきた Kevin Coombs-REUTERS

<変化やリスクを嫌う日本社会の保守的風土が、優秀な若者を外資に追いやっている>

以前は多くが中央官庁や財閥系企業へ進んでいた東京大学法学部の学生が、外資系のコンサルや投資銀行に就職するようになっている――これは数年前から指摘されていたことです。こうした「国立大卒業生の外資への就職」について、参政党代表の神谷氏が批判して話題になっています。

一つ申し上げておきたいのは、日本の優秀な人材が外資に流れることに「違和感」を持つ、というのは正しいということです。この点において、神谷氏や参政党の他の発言などと一緒に、この発言も「排外主義だ」として片付けるのは安易すぎると思います。


勿論、この種の指摘は、社会を誤った方向に導く危険性もあります。例えば、国立大の卒業生には日本の官庁や企業への就職を義務付けるとか、外資に就職したら、授業料の私学との差額をペナルティとして払わせるなどの安易な「対策」を講ずるのはマズいと思います。優秀な学生の国立離れを招き、結果的に国立大学の地盤沈下を招きかねないからです。

では、何もかもを自然の流れにまかせればいいのかというと、それも違うと思います。「国立大学出身者が外資に流れる」という現象の裏には深刻な問題が隠されているからです。その多くは、日本の経済が衰退した要因につながっていることを考えれば、外資への就職ブームという現象を問題視することは必要です。勿論、そこには内外の給与格差という問題がありますが、その奥には更に本質的な問題があるということです。

判断権限のない経営者

まず、東大法学部の出身者などが進むジャンルとして、外資のコンサルという存在があります。まず、常識的に考えて、新卒の若者がコンサルを目指すということ自体が不自然です。コンサルというのは、豊富な現場経験を経て幅広く通用する専門スキルを持った人材が集まる、通常はそんなイメージだからです。

ですが、現在の日本の多くの企業は、前世紀のバブル崩壊以降は、リスクを最小化する経営に徹してきました。また、伝統企業の場合、経営陣には新卒から叩き上げて、過去の成功と社内政治で浮上した人物が順送りで就任してきました。

そのような企業の場合は、経営者には企業戦略を変更するといった大きな判断をする権限は事実上与えられません。独断で変革を進めると、内外の抵抗勢力に潰されるからです。ですが、DXにしても、国際化にしても、外部環境の変化は激しく、停滞していてはその企業の死を早めるだけです。

そこで、大きな決定や変更の際には、コンサルを雇ってコンサルの提案という形を取り、経営陣はそれに従うという形で変化を進めるという段取りが必要になってきます。その場合に、いくら鋭い企画を持っていても、実績のない新興コンサルでは権威がなく、組織は動きません。そこで、欧米の著名ブランドのコンサルティングファームに戦略の立案を依頼するということが必要になるというわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ビザ免除制度のSNS情報提出義務付け案、観光客や

ワールド

米誌タイム「今年の人」はAI設計者ら、「人類に驚き

ワールド

タイ首相、議会解散の方針表明 「国民に権力を返還」

ワールド

米、新たな対ベネズエラ制裁発表 マドゥロ氏親族や石
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 9
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story