コラム

文科省汚職事件、そもそも私大「ブランディング」に政府助成が必要なのか?

2018年07月05日(木)16時00分

本来はそうだと分かっていても、「教員の質向上」というような恒久的なコスト増要因になる施策というのは、財源等の問題から難しかったのかもしれません。そんな中で、とにかく各大学の衰退に歯止めがかかるような政策で、「恒久的ではないが効果が見込める」ものとして「ブランディング」という企画が浮上した可能性はあります。分からないわけではありませんが、国費の使途としては、何となく乾いた砂に水をかけてもすぐしみ込んでしまうようなイメージが消せません。

ちなみに、話題になっている加計学園は2年連続で「対象校」に入選しており、加計孝太郎氏の経営する岡山理科大学、千葉科学大学は2016年に、同氏の妹が経営する吉備国際大学は2017年にそれぞれ対象校になっています。吉備国際大学の方は、地元の農業振興から「ブランディング」という地に足のついた企画ですが、岡山理科大は「モンゴルと提携して恐竜研究」という内容でした。モンゴルのゴビ砂漠で恐竜の化石が出るのは世界的に有名で、日本からも東大や北大が共同研究をしています。そこに、岡山理大が限られた予算で「ブランド力になるような話題作り」になるレベルまで食い込めるのかどうかは難しさがありそうです。

また、問題となった東京医科大学のテーマは「低侵襲医療」つまり患者の身体にメスを入れることをしない先端医療の研究で「世界的拠点」を作るというもので、仮に真剣に取り組んでいるのであれば、各所から予算をかき集めようということで、焦りが生じたのかもしれません。そうではなくて、単に2000年代の医療事故などで低下した「ブランド力」を修復するのに国費を当てにしていたのであれば、相応の批判がされるべきと思います。

アメフト部が問題になった日本大学も2017年に入選しています。こちらは、「アンチ・ドーピングの研究拠点」作りというスポーツ関連の壮大な構想でした。ですが、日大の場合は、「ブランド力」ということでは全く違う緊急性のある課題を抱え込んでいるわけです。そんな中で、引き続きこの補助金が出ているのであれば、見直しが必要ではないでしょうか。

今回の事件では、官僚の贈収賄とか不正入試というのも問題ですが、こうした支援金の出し方ということ自体の見直しを含めた議論が必要だと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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