コラム

日本の核武装は、なぜ非現実的なのか

2017年09月02日(土)13時40分

2012年と現在を比較した場合、具体的な違いは日本が高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉を決定したことがあります。大量の使用済み核燃料を抱え、これを主としてフランスでプルトニウムへの再処理をしてもらっている日本は、プルトニウム保有大国です。その保有目的は、何よりも高速増殖炉における「核サイクル」を実用化してエネルギー源とすること、これに加えて通常の軽水炉の燃料としてプルトニウムを付加したMOX燃料を使うことです。

ところが、現在はMOX燃料を使用する「プルサーマル」運転が極めて限定的になっている上に、「もんじゅ」が廃炉とされる一方で、余剰プルトニウムの量は47トンを超えています。このような状況においては、現時点でも国際社会への釈明に苦慮する可能性を抱えています。日本が核武装への動きを見せれば、即座に厳しい査察の対象となることが考えられます。

日本はNPT=IAEAに加盟しているだけでなく、世界の主要国との間で「原子力協定」を締結し、二国間関係として相互に原子力利用の現状を「承認しあって」います。仮に日本が核武装の動きを見せれば、多くの国が日本との原子力協定を破棄することになるでしょう。日本としては、日米原子力協定の破棄、日仏原子力協定の破棄という事態になれば、民生用の原子力平和利用における国際的な協力が受けられなくなります。

【参考記事】日本、北朝鮮に打つ手なし?

また、日本が核武装の動きを見せた場合、これは昨年の米大統領選で候補だったトランプの「暴言」が現実化することになります。当時のトランプは、日本が駐留米軍の費用を100%負担しないのであれば、在日米軍を引き揚げるが、その場合に日本が核武装することは認めるというロジックでした。

順番こそ違え、日本の核武装はトランプの発言そのままです。裏返せば、在日米軍の引き揚げイコール日米同盟の解消へという流れになることが考えられます。

そうなると、日本は対中国、対ロシアなどに対する抑止力を自身で構築することが必要となり、核武装だけでなく通常兵器と兵員についても、数倍のスケールの増備をしなくてはなりません。これに核攻撃力の構築と維持のコストが乗っかるわけで、ただでさえ人口減と競争力低下に苦しむ日本経済は、これに耐えられるとは思えません。

2017年の現在、日本にとって核武装という選択は、以前より一層非現実的になっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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