コラム

オスカー作品賞「誤」発表の大トラブル、その時何が起こったか

2017年02月28日(火)15時40分

作品賞の告知カードが間違って渡され大混乱となるオスカー授賞式 Lucy Nicholson-REUTERS

<アカデミー賞授賞式で、作品賞受賞作が一旦『ラ・ラ・ランド』と発表されてから『ムーンライト』に訂正される前代未聞の事態が発生。生中継された、両映画関係者の人間ドラマはなかなかの見物だった>

前代未聞の珍事が起きてしまいました。一部では「作品賞受賞作を取り違え」という報道がありますが、そんなレベルの話ではありません。アメリカで最もメジャーなテレビイベントのクライマックスが、メチャクチャになってしまったのです。

このシーンですが、最初は厳粛に始まりました。オスカーという大イベントの最後のプレゼンターは、ウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイのコンビでした。この2人は、1967年に公開された映画史に残る作品『俺達に明日はない』(アーサー・ペン監督、原題は、"Bonnie and Clyde")で、破滅的な男女を好演しています。この映画の公開50周年ということで選ばれたのでした。

もちろん、ベイティは『レッズ』(1981年)で監督賞を、ダナウェイは『ネットワーク』(1976年、シドニー・ルメット監督)で主演女優賞を獲得していますが、それぞれに膨大な作品を残している超一流の役者さんです。

【参考記事】『ラ・ラ・ランド』の色鮮やかな魔法にかけられて

ベイティは、発表にあたって「ハリウッドは多様性という価値を大事にしなくてはなりません」と、この晩の「念押し」のようなメッセージを述べて喝采を浴びていました。そして、いよいよ「オスカー授賞は......」となった瞬間に、ベイティがおかしな顔をして、発表を躊躇したのです。

そこで「何やってんのよアンタ」という感じで、ダナウェイは赤い封筒を奪って自分で受賞作を発表したのです。その躊躇というのもいかにも「力のない色男」の役を得意にしてきたベイティらしいものでしたし、そこで自分が封筒を取り上げて発表してしまったというのも「勝気な女性の美しさ」を生涯かけて表現してきたダナウェイらしいものでした。

ダナウェイの口からは『ラ・ラ・ランド』というタイトルが呼ばれ、会場では、即座にピットにいたオーケストラが『ラ・ラ・ランド』の音楽を演奏する中、スタッフとキャストは歓喜の表情を浮かべて壇上に上ったのです。この時点では、何の異変も感じられませんでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

経済対策の国費21.3兆円で最終調整、事業規模は4

ビジネス

エヌビディア、強気見通しでAIバブル懸念は当面後退

ワールド

米商務省が最先端AI半導体のサウジとUAE企業向け

ワールド

トランプ氏、州のAI法阻止へ大統領令検討 訴訟や資
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 8
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story