最新記事

映画

『ラ・ラ・ランド』の色鮮やかな魔法にかけられて

2017年2月17日(金)10時40分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

ジャズクラブを開くのが夢のセバスチャンと女優を夢見るミアは、何度かの偶然が重なって恋に落ちる © 2017 SUMMIT ENTERTAINMENT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. PHOTO CREDIT: EW0001: SEBASTIAN ( RYAN GOSLING) AND MIA (EMMA STONE) IN LA LA LAND. PHOTO COURTESY OF LIONSGATE.

<アカデミー賞最有力候補との呼び声も高い、話題作『ラ・ラ・ランド』の野心と情熱に脱帽>

デイミアン・チャゼル監督の最新作『ラ・ラ・ランド』は、冒頭からエンジン全開だ。

ロサンゼルスの真っ青な空からフリーウエーに目を落とすと、そこは朝の大渋滞。イライラして窓から顔を出す人もいれば、クラクションを鳴らす人もいる。やがて車列の間を滑るように動いていたカメラが、運転席で歌っている女性の横で止まる。

次の瞬間、彼女は車から降りて踊りだす。たちまちいくつもの車からカラフルな衣装の若者が降りてきて、路上で、車の上で、中央分離帯の上で踊りだす。道路はあっという間に、ショービジネスの世界で成功を夢見る若者たちのエネルギッシュな舞台へと変身する。

チャゼルと撮影監督のリヌス・サンドグレンは、このシーンを大胆な長回しで描き出す。もちろんデジタル技術もいくらか使っているが、カットなしで上下左右に流れるようなカメラワークは、まるで古き良きミュージカル映画を見ているよう。「このシーンにワクワクしない人は、次の出口ランプで降りてください」というメッセージが聞こえてきそうな野心的なオープニングだ。

それ以降はオープニングほど大胆な試みはないものの、『ラ・ラ・ランド』では古き良き時代へのノスタルジーと、現代的な味わいが見事に溶け合っている。

【参考記事】オリバー・ストーン監督が描く愛国者スノーデンの裏切り

主人公2人の絶妙な相性

例えば、主人公の寝室には往年の大女優イングリッド・バーグマンの巨大なポスターが貼られている。彼女の恋人が崇拝するのは、ジャズピアニストの巨匠セロニアス・モンクやホーギー・カーマイケルだ。また終盤で観客の胸を打つ美しく悲しいバラードは、ミュージカル映画の傑作『シェルブールの雨傘』を思い起こさせる。

とはいえ、『ラ・ラ・ランド』は決して昔のミュージカル映画を再現したわけではない。たとえチャゼルの独創的なアイデアがオープニングほど絶妙な効果を発揮していないシーンでも、この映画は大胆で、おかしくて、生き生きとしたエネルギーに満ちあふれている。

ミア(エマ・ストーン)は、映画撮影所のカフェで働く女優の卵。いつかスターになることを夢見ながら、本物のスターたちにコーヒーを出している。一方、セバスチャン(ライアン・ゴズリング)はジャズを愛する場末のピアノ弾きだ。

ある晩、セバスチャンはレギュラー出演していたレストランで、支配人に指示されていない曲を弾いてクビになってしまう(支配人を演じるのは、チャゼルの前作『セッション』でアカデミー賞助演男優賞を受賞したJ・K・シモンズだ)。

ミアもセバスチャンも頑固な理想主義者で、成功するために妥協するべきかどうか思い悩んでいる。冒頭のフリーウエーで出会った2人は、その後もロサンゼルスのあちこちで偶然出くわし、やがて恋に落ちる。

ニューヨークに行けば歌も踊りももっとうまい俳優がいくらでもいるのに、ハリウッドスターに歌って踊らせることに賛否両論があるのは無理もない。実際、ゴズリングとストーンのダンスやデュエットも、圧巻というよりはほほ笑ましい印象が強い。だがそれがかえって、大胆だけれど、大げさ過ぎないこの映画にぴったり合っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、終値ベースの最高値更新 朝安後切り

ビジネス

午後3時のドルは147円後半、売買交錯が続く

ワールド

スイスの経常黒字が半減、トランプ関税巡り金輸出に異

ワールド

超大型の台風18号、台湾東部で14人死亡・152人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    「汚い」「失礼すぎる」飛行機で昼寝から目覚めた女…
  • 6
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    カーク暗殺をめぐる陰謀論...MAGA派の「内戦」を煽る…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中