コラム

「ケリー広島献花」を受け止められなかったアメリカ

2016年04月12日(火)17時20分

ケリー国務長官はG7外相会合の他の参加メンバーと共に原爆死没者慰霊碑に献花した Jonathan Ernst-REUTERS

 今週11日、G7外相会議で広島を訪れたアメリカのケリー国務長官は、G7外相の一員として広島の原爆死没者慰霊碑に献花しました。また前後して、原爆資料館も見学しています。しかしこのニュース、アメリカの各メディアから基本的にスルーされました。

 日米の時差を考えても、アメリカの11日朝のニュースや朝刊には間に合わせようと思えばできたはずです。しかし朝の時点での扱いはほぼゼロでした。その代わり、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどは日中になって電子版で論評を出しました。

 テレビに関して言えば、報道は極めて限られています。CNNが短く編集したニュースをウェブに出しており、この映像は午後から夕方のニュースで放送した可能性はありますが、夕方以降の7時台、8時台のニュースでは取り上げられていません。

 3大ネットワークでは、例えばNBCの場合、朝のニュースでも扱わず、夕方6時半の「ナイトリーニュース」でも取り上げずに終わりました。ということは、メディアとしてはほぼスルーした格好です。

 ケリー長官は資料館見学について 「gut-wrenching」 つまりこの場合の訳としては「魂がねじれるような」経験だったと述べています。このコメントについては、私は誠実なものだったと思います。

【参考記事】ケリー国務長官の広島献花は、米世論の反応を見る「アドバルーン」

 しかしながら現時点では、アメリカはこの「ケリー献花」という「事実」を受け止めきれていません。メディアが取り上げなかったということ、またケリー長官のコメントを補足する形で、国務省から「今回の献花は第二次大戦全体の犠牲者への追悼である」という「見解」が出たということは、要するにそういうことです。

 この点についてニューヨーク・タイムズは、興味深い掘り下げ方をしています。

 ジョナサン・ソーブル記者は、ケリー長官の献花を、オバマ大統領の広島献花につなげることが「可能か?」という一点にほぼ絞って分析をしています。そこで日米関係の専門家として、東京財団の渡部恒雄さん(ナベツネさんではありません。民主党の政治家だった渡部恒三さんのご子息です)から「日本人の多くはオバマ大統領が広島に来れば、仮に謝罪の言葉がなくても暖かく迎えるであろう」というコメントを取っています。

 一部からは批判も出るかもしれませんが、これは渡部さんのグッド・ジョブだと思います。ですが、ソーブル記者の記事の全体は、オバマ大統領が広島に行くことの是非について、何とも神経質に過ぎる書き方をしていて、とても気になります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インタビュー:高市氏は「安倍路線の継承示せ」、トラ

ワールド

途上国格付け、透明性の強化を=南ア中銀総裁

ワールド

米ハーバード大基金、寄付が過去最高 トランプ政権と

ワールド

トランプ米大統領、牛肉価格引き下げに意欲
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story