コラム

非常事態宣言まで出たフリント市の水道汚染は「構造的人災」

2016年01月28日(木)16時00分

フリント市の住民には飲料水が配給されているが、安全な水道水が復旧する目途は立っていない Rebecca Cook-REUTERS

 ミシガン州フリント市で、水道水が高濃度の鉛で汚染されて健康被害まで確認され、オバマ大統領が「非常事態」を宣言する事態になっています。一体、何が起きているのでしょうか?

 フリント市は、デトロイト市から北西に50キロ離れた中規模都市で、自動車産業の拠点として有名でした。最盛期は60~70年代で、この頃の人口は20万人弱に達していたのですが、自動車産業の衰退とともに人口は減少して現在は9万9000人へと半減しています。

 また一時期の高福祉政策の結果として流入した貧困層のために、市の人口に占める貧困線以下の住民は26%に及んでいます。また人種ということではアフリカ系が57%、ヒスパニックが4%、非ヒスパニックの白人が36%となっています。こうした状況を受けて、市の財政は破綻し、現在は「財政非常事態」と認定されて「管財人の管理下」つまり、事実上はミシガン州の管理下に置かれています。

 このフリント市の盛衰に関しては、同市の出身である左派のドキュメンタリー映画監督であるマイケル・ムーアが出世作である『ロジャー・アンド・ミー』(1989年)で描き出しています。GMがリストラで利益を確保している一方で、フリントのコミュニティは根本から破壊されたということを、当時のGMのロジャー・スミス会長に「アポなし取材」で対決するという「ストーリー」がタイトルの由来です。

 ちなみに、ムーア監督は日本でも有名で人気がありますが、以前のコラムで取り上げたように、そもそもデトロイト、そしてフリントの自動車産業を「破壊」したのは日本車であることから、根っこの部分では日本に対しては複雑な感情を持ち続けているようです。

 そのフリント市で、水道水の「鉛汚染」が発覚したのです。鉛は重金属の中でも人体に深刻なダメージを及ぼすことで有名で、赤血球の重要な成分であるヘモグロビンの生成を阻害します。特に子どもの場合、長期的には神経障害などの重篤な症状を招く恐れがあります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中閣僚貿易協議で「枠組み」到達とベセント氏、首脳

ワールド

トランプ氏がアジア歴訪開始、タイ・カンボジア和平調

ワールド

中国で「台湾光復」記念式典、共産党幹部が統一訴え

ビジネス

注目企業の決算やFOMCなど材料目白押し=今週の米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 6
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 7
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 8
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story