コラム

「なでしこ」だけではない女子サッカー選手の低賃金

2015年06月25日(木)11時10分

 そんな中、女子サッカー選手の「給与水準の低さ」というのは、やはり異常です。もちろん札束が飛び交うことが「ない」というのは、各国のリーグにしても、ワールドカップ大会全体にしても清潔な感じを与えますし、選手の「キャラクター」を市場に売り込む必要がないことから、不必要なレベルまでプライバシーを明かすことにならないのは良いことだと思います。

 ですが、それにしても、他のプロスポーツとの格差、またサッカーにおける男女の格差というのは異常です。例えば、W杯カナダ大会の賞金総額は、今回増額されて1500万ドル(約18億円)になりましたが、男子の2014年ブラジル大会では5億7600万ドル(約690億円)ですから、38分の1に過ぎないのです。

 これは、やはりFIFAの体質、各国の協会の体質に問題があるとしか言いようがありません。例えば、今回のW杯カナダ大会では、FIFAの公式スポンサーであるコカ・コーラ(アメリカ)やガスプロム(ロシア)の広告が、ピッチ脇の電光掲示板のバナー広告として目立っていました。

 こうしたFIFA公式スポンサーからの収入について、(あくまで想定ですが)賞金の分配率を全体に適用して考えるのであれば、39分の38は男子に分配し、女子には39分の1しか分配されないということになるわけです。これは広告の視聴者数などを考えても、差が大きすぎるのではないでしょうか。

 テニスやスケートなど個人競技の選手については、女性のキャラクターなどを含めたパッケージとしての「広告塔効果」はあるが、女子サッカーの場合そうした効果は未開拓......そんな見方もあるようです。しかしそれ以前の問題として、FIFAにおける男女の「格差」はやはり問題視すべきではないでしょうか。

 少なくとも今回のFIFA本部のスキャンダルが、カナダ大会にほとんど影響を与えなかったという事実は、良く言えば女子W杯がスキャンダルとは無縁ということかもしれません。ですが、スキャンダル以前の問題として、女子サッカーが「お金に縁がない」ということならば、それは是正されるべきでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インフレリスクは上振れ、小幅下振れ容認可能=シュナ

ビジネス

エネルギー貯蔵、「ブームサイクル」突入も AI需要

ワールド

英保健相、スターマー首相降ろし否定 英国債・ポンド

ビジネス

ロシア、初の人民元建て国内債を12月発行 企業保有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 10
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story