コラム

「なでしこ」だけではない女子サッカー選手の低賃金

2015年06月25日(木)11時10分

 現地時間で23日深夜のオランダ戦を2対1で勝ち抜いた「なでしこジャパン」は、W杯2連覇の期待がかかる中で、精度の高いサッカーを継続しています。アメリカでは「FOXスポーツ」が全試合を中継していますが、日本代表については「ディフェンディング・チャンピオン」として、終始リスペクトが払われ、各選手のプレースタイルに関して詳しく解説されています。

 その「なでしこ」の選手たちですが、活躍、知名度、そこに至る並大抵ではない努力にくらべ、年俸が極めて低いということはよく言われています。多くの選手の年俸が300万円前後だというのも驚きですが、欧州リーグへの参加組には協会の「強化指定選手制度」があり、定期的に「滞在費」が支給されるというのですが、その額も「半年に1回200万円」なのだそうです。

 では、日本の女子だけが経済的に厳しい環境に置かれているのかというと、決してそうではありません。

 BBCなど米英のメディアによれば、アメリカやイギリスの女子選手の給与水準も高くはありません。もちろん例えばブラジルのスーパースターであるマルタなどは、40万ドル(約4800万円)の年収があり、アメリカのトップFWであるワンバックやモーガンなどは個人に企業スポンサーがついていることもあって、円換算で数千万の収入を得ていると言われています。日本の澤選手も、やはり企業スポンサーからの収入を含めると、この水準に達していると推定されます。

 ですが、この4人を除くとアメリカやイングランドの代表選手でも、円換算で300万円から600万円という水準にとどまっています。

 一方で、女子スポーツ全体を考えてみると、例えば経済誌『フォーブス(電子版)』による、2014年の「世界の女性スポーツ選手ランキング」では、トップ3は全てテニスプレーヤーで占められていますが、1位のシャラポワが2440万ドル(約30億円)、2位は引退した李娜選手で2360万ドル(約28億円)、3位はセリーナ・ウィリアムズ選手で1630万ドル(約20億円)という状況です。

 ちなみに、10億円前後を稼いでいるのはテニス選手ばかりではなく、韓国のキム・ヨナ選手(フィギュアスケート)は4位で1630万ドル(約19.5億円)、5位のダニカ・パトリック選手はアメリカのカーレーサーで、1500万ドル(約18億円)、10位のポーラ・クリーマー選手はLPGAのゴルファーです。テニスだけが突出して高いというわけではありません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:日銀利上げ、円安とインフレの悪循環回

ビジネス

JPモルガン、26年通期経費が1050億ドルに増加

ワールド

ゼレンスキー氏、大統領選実施の用意表明 安全確保な

ワールド

EU、凍結ロ資産活用へ大詰め協議 対ウクライナ金融
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story