コラム

手詰まり感が濃厚になった北陸新幹線の「福井先行開業」

2015年06月04日(木)13時29分

 まず、この留置線の設置費用(概算)として、約80億円がかかるそうです。2年後に「終点でなく」なれば不要になる設備に、です。また、敦賀開業で進めていた運行管理システムの改修に相当なカネ(一部報道では数100億円?)がかかるとか、橋梁工事の日程から逆算すると2020年の福井延伸を実現するためには「ふた冬かけた試験走行・習熟運転」ができない危険があるとも言われています。

 これだけでも問題なのですが、さらに大きな難問があるのです。同じ留置線でも、金沢から白山車両基地への回送は「現在の営業区間の先」ですから、10キロ離れていても本線のダイヤを妨害はしません。ところが、「あわら市近辺」つまり、福井から「金沢方面に15キロ戻った地点」に留置線を設けるとなると、本線のダイヤとの問題が出てきます。

 福井新聞が他紙と共同で展開しているサイトによれば、6月1日の会合でJR西日本からは、留置線が2本の場合、福井から金沢方面に向かう新幹線は1時間に1本になるという説明があったというのです。これでは、大阪・京都・米原方面から福井に入る特急(「サンダーバード」「しらさぎ」)が1時間に3本(現在のダイヤによる)と仮定すると、福井~金沢間の新幹線は特急より本数が少なくなり接続が難しくなります。

 さらに言えば、せっかく福井~東京間が新幹線で直通になっても、その1時間に1本の新幹線の輸送力のうちの「相当な部分」は大阪や京都から来て金沢・富山へ乗り継ぐ人に割り当てなくてはなりません。今は、同じことが金沢乗り換えで起きていて、その対策としては西から「サンダーバード」「しらさぎ」で来た乗客が富山まで行くための「つるぎ」というローカル新幹線特急があるわけですが、「1時間に1本」の「発着枠」が東京行きの「かがやき」になると、「つるぎ」は福井には入って来られません。

 そこで、JR西日本は「3セク化される並行在来線には特急は乗り入れない」という「大原則」を破って、「福井が新幹線の終点になる」数年間は、「サンダーバード」「しらさぎ」を金沢まで乗り入れる判断もある、というようなことを言っています。これでは、費用対効果としては何のための福井延伸開業であるか分かりません。そのウラには、西から来る在来線特急の折り返し設備が福井にないので、それを作ったら、そっちにもカネがかかるという問題があると思われます。

 さらに言えば、金沢と福井の間には「小松」「加賀温泉」「芦原(あわら)温泉」の3駅が建設中ですが、「1時間に1本」の枠のほとんどが速達型の「かがやき」になるのであれば、この3駅に停車する新幹線は「1日に数本」しか設定できなくなります。

 与党プロジェクトチームは「7月中には結論を」出す見通しのようですが、ほぼ手詰まりになったのではないでしょうか? 金沢開業の盛り上がりを見ていると、福井が焦る気持ちも分からないではないのですが、とにかく「福井先行開業」は無理筋です。その際の80億円とか、さらにシステムに数100億円というカネがあるのであれば、米原方面延伸(まだルートは未決定)のために使うべきでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story