コラム

オバマ政権が「テキサス・バイカー・ギャング戦争」への介入に消極的な理由

2015年05月21日(木)13時09分

 アメリカには「モーターバイク族」、つまりハーレーなどの「自動二輪」マニアが、集団で走行したり、集会を開いたりするカルチャーがあります。団塊の世代を中心とした比較的平均年齢の高い集団で、デニムや革ジャンなどにバッチを沢山つけたり、赤や黄のバンダナを巻いたりというファッションが特徴です。私の住んでいるニュージャージー州でも、季節が良くなるとハミルトンという町の大きな公園で、そうした「バイク族」の大集会があり、その前後は集会に参加するバイク族で、高速道路が混雑することがあります。

 こうしたバイク族は、俗に言う「草の根保守」のカルチャーを持っており、ブッシュ大統領によるイラク戦争の時代には、戦争に参加しなかったフランスを非難したり、あるいは星条旗を振りかざしたりなどの行動が見られました。ちなみに、この「バイク族」に関しては、ほぼ99%が白人のカルチャーだと言われています。

 いわゆる「バイク族」に関しては、そのような理解がされていました。ところで、集団で走行するとはいえ、「暴走族」というのは彼等の形容としてはあまり適切ではありません。制限速度や交通法規は比較的よく守る傾向があり、カルチャーとしては目立っていても「人様に迷惑をかける」存在ではないからです。

 ところが、5月17日にテキサス州のウェーコ市で発生した「抗争事件」は、こうした「バイク族」のイメージを一変させてしまいました。

 テキサスで勢力を張っていた「アウトロー」のバイク集団である「バンディードズ」と、これに対抗してテキサスでの勢力拡大を続けていた「コザックス」が、スポーツバー的なチェーン・レストランで「遭遇」してしまい、小競り合いから始まって、駐車場での相手の車両を倒すという行為からどんどんエスカレートしてしまったのです。

 やがて、双方は銃火器やナイフなどでの「果たし合い」という状況となりました。そこへウェーコ市の市警察が急行して銃撃戦となり、バイク集団には9人の死者と18人の重軽傷が出る中、その場にいた双方のグループはほぼ全員に近い171人が逮捕されて現在取り調べが続いています。

 今回の事件で明るみに出たのは、アメリカの「バイク族」には「AMA協会員」と「アウトロー」という2種類があるということです。AMAというのは「アメリカン・モーターサイクリスト・アソシエーション」の略で、全米のバイク乗りが加入する正規団体です。これに加入していない「アウトロー」もしくは「1%」と言われるグループの中から、今回の事件が起きたのです。

 この「アウトロー」に関して言えば、かなりのレベルで反社会的な犯罪集団と言ってよく、今回の抗争も、相当に根が深いもののようです。テキサスで主導権を持っていた「バンディードズ」は長年テキサス州で「コザックス」が集会を行う際には「縄張り料」を徴収していたのが、勢力拡大に伴って「コザックス」は支払いを拒否するようになり、一触即発の中で今回の抗争劇に至ったというのですから穏やかではありません。要するに「バイク乗り」とは言っても、ほとんど「ギャング」としか言いようがない集団というわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story