コラム

オバマ政権が「テキサス・バイカー・ギャング戦争」への介入に消極的な理由

2015年05月21日(木)13時09分

 その一方で、両グループ共に「警官が不当な攻撃をして来て仲間が殺された」こと、そして「大勢の仲間が逮捕されている」ことには怒りを爆発させており、ウェーコ市警に対する報復攻撃を匂わせる気配もあるそうです。ウェーコ市警は現場に残された80台ほどの車両と135台のバイクを「違法行為の手段となる物品」だとして「強制差し押さえ」を行っていますが、これに対しても全米の「アウトロー」グループが激怒しているそうです。

 そんな中、8月上旬にはサウスダコタ州で全米規模の大規模なバイク乗りの大会が計画されており、そこには合法な「AMA協会系」だけでなく、「アウトロー系」の参加も予想されることから、同州はテキサス州警察との間で、治安維持活動に関する情報交換を行っているそうです。

 ところで、今回の事件については、メリーランド州のボルティモアや、ミズーリ州のファーガソンにおける黒人暴動の問題と比較するような論調が見られます。例えば、黒人暴動に関しては「都市機能がマヒ」だとか「略奪・放火などの不祥事続発」といった形で、暴動を起こした側に対するネガティブな報道がされるのに、白人主体の「バイク・ギャング」の犯罪にはメディアは甘いという批判が1つあります。

 一方で、黒人が絡んだ人種暴動には連邦政府や司法省、FBIが介入してくるのに、今回の事件は傍観しているだけという批判もあります。

 この点に関しては、この種の「バンク・ギャング」はアメリカの「極右カルチャー」を代表していることから、FBIなどの「連邦政府」に対しては激しい敵愾心を持っているグループです。そのために、FBIや司法省は捜査や治安維持活動の前面に出ることは避けているということはあると思います。

 今回の不祥事が起きたテキサス州のウェーコ市は、22年前に新興宗教団体の「ブランチ・ダビディアン」が立てこもり事件を起こし、連邦政府の司法省管轄の部隊と銃撃戦となって建物に放火し、ほぼ全員の81人が死亡する事件が起きた因縁のある土地でもあります。オバマ大統領とリンチ司法長官としては、人種的な問題もありますし、白人カルチャーの暗部とも言えるこの種の事件には安易には手は出せないでいます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀の12月利下げを予想、主要金融機関 利下げな

ビジネス

FRB、利下げは慎重に進める必要 中立金利に接近=

ワールド

フィリピン成長率、第3四半期+4.0%で4年半ぶり

ビジネス

ECB担保評価、気候リスクでの格下げはまれ=ブログ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 10
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story