コラム

2020東京五輪の「テーマ」はどうして知られていないのか?

2014年08月05日(火)11時11分

 それぞれのオリンピック大会には、それぞれの「テーマ」が設定されています。では、6年後に迫った2020年の東京五輪の「テーマ」は何なのでしょうか? もしかすると「環境に配慮したコンパクトな五輪」という理解をしている人も多いのではないでしょうか? 私もそう思っていました。

 確かに、この「環境五輪」というのは2016年五輪の招致にあたって東京がアピールしたテーマです。ですが、この2016年の招致活動ではリオデジャネイロに負けてしまっており、そのことでこのテーマ設定も「否定された」格好になっているのです。

 ちなみに、2016年の際には「60年間平和を維持してきた日本」ということを前面に出しての「平和五輪」というコンセプトも強くアピールしましたが、こちらも落選により消滅しています。

 では2020年のテーマは何かというと、日本国内では「おもてなし」つまり来日する選手団や観客へのホスピタリティとか、日本文化の紹介をしようというコンセプトが幅広く理解されているようです。ところが、これはあくまで非公式なものであって、公式のテーマではありません。

 今回、2020年の招致にあたって日本の招致委がIOCにアピールしたのは、「スポーツ・フォー・トゥモロー」という概念です。正確に言うと、日本政府が国の政策として、この「スポーツ・フォー・トゥモロー」を実行すると宣言したことで、日本の方針をIOCが高く評価し、それが招致決定の決め手になった。そして同時に東京五輪の実施にあたって、この「スポーツ・フォー・トゥモロー」の実行が求められるという経緯になっています。

 ですから、正確に言えば五輪のポリシーとは少し違うのですが、五輪と共に実施されて成果が期待される、しかも国際社会から高く評価されているということでは、今回の五輪の事実上の「テーマ」と言っていいでしょう。

 この「スポーツ・フォー・トゥモロー」とは具体的には次の3点から成っています。(表現は私なりに分かりやすく「言い換え」をしています)

(1)途上国などに日本のスポーツ振興のノウハウを普及する。例えば、体育館の建設、学校教育における体育指導の導入などの二国間関係を基本として、青年海外協力隊などの活動として実施する。

(2)スポーツマネジメントに関する国際的な人材育成を行う。具体的には、専門家を養成する大学院を設置して、日本のスポーツ文化と世界の最先端のノウハウを融合した高度な教育を行う。

(3)アンチ・ドーピング活動を、国際的に支援する。具体的には、複雑化した検査技法や制度の運営ノウハウを途上国に普及する活動など、実務的な課題解決に協力していく。

 今回は、この3つの政策の中の(2)にあたる、高度なスポーツマネジメント人材育成を行う大学院の設置に関して、その調印式とパネルディスカッションを取材する機会がありましたので、その報告をしたいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story