コラム

隕石落下と小惑星接近は本当に無関係なのか?

2013年02月18日(月)12時55分

 15日にロシアに落下した隕石は、超音速での落下中に、ソニックブーム(衝撃波)による大きな被害を引き起こしています。この隕石落下に関しては、NASA(米航空宇宙局)が直後に声明を発表して、この隕石は当時地球に接近中であった小惑星「2012DA14」とは無関係であるとしています。

 確かに、巨大小惑星の最接近まで24時間という時点で、ロシアのあそこまでの大きな被害が「モロに映像として」全世界を駆け回ったわけですから、世界規模でのパニックを防止するには「無関係」という発表となったのは理解できると思います。その背後には良くも悪くも「クールな危機管理」の好きなオバマのホワイトハウスの意向もあるかもしれません。

 また、観測によって追跡ができていた小惑星「2012DA14」はロシアの隕石落下の時点では「いまだに接近中」であったわけですから、ロシアでの一件が「問題の小惑星そのもの」ではないということを、世界中に徹底するという意味はあったと思います。

 ですが、冷静に考えてみれば、「本当に無関係なのか?」という点に関しては、どうしても疑問が残るのです。

 まず、隕石の質量が特定できていません。質量に関しては報道が二転三転していますし、そもそも氷を破って湖底に沈んだ(あるいは突き刺さっている)隕石の「本体」は見つかっていないのです。黒い破片が発見されたという報道はありますが、全体像は不明です。

 仮に隕石が見つかっても、分厚い大気との摩擦で焼けた残骸に過ぎないわけですから、その「焼けて小さくなった具合」が分からない以上は、宇宙空間を接近してきた時点での質量も正確には分からないと思います。ということは、逆算して接近前の軌道を推定することも不可能であり、この隕石が小惑星「2012DA14」とは無関係という断言はできないと考えられます。

 NASAは17日になって「大気圏突入時の音波観測によって確定した軌道によれば、隕石は火星と木星の間にある小惑星帯から太陽を周回する軌道で来ており「2012DA14」とは関係ない」と改めて言っていますが、質量の確定が難しい物体の場合、大気の摩擦や重力による軌道の変化から逆算して宇宙空間での軌道を正確に計算できるのでしょうか?

 勿論、推測に過ぎませんが、何千年に一度という小惑星接近の24時間以内に、何千年に一度という隕石落下が発生したということについては、全く関係がないという「断定」はできないのではないでしょうか?

 凍結していた小惑星が、太陽への接近に伴って部分的に脆くなって、一部が崩壊し、分離した部分が地球の引力に引き寄せられたとか、そもそも小惑星が小さな岩塊を伴っていたとか、あるいは小惑星の引力で宇宙の小さなゴミである隕石の軌道に変化が起きて地球に落下したとか、何らかの関係がある、勿論、仮説に過ぎないのですが、そんな考え方も可能ではないでしょうか?

 とにかく、隕石の落下後の質量も、更に言えば燃える前の質量などは分からない以上は、宇宙空間での軌道の推定は困難であり、小惑星との関係が「ない」という証明も不可能ではないかと思うのです。

 私は、何もムリをしてNASAの発表にイチャモンをつけようと言うのではありません。私の疑問はただ一点であり、それは「小惑星が接近した場合は、仮に本体との衝突が回避できる場合でも、最接近の前後で隕石などが落下する可能性が増すということがあるのか?」ということです。

 この点に関して「イエス」ということであるならば、しかも相当程度の確率の増大があるのであれば、将来仮に「小惑星の接近」という予報が出た場合に、小惑星そのものが地球に衝突する危険がないにしても、接近の前後には「何らかの警戒体制」が必要になるのではないでしょうか?

 ちなみに、今回接近したのが小惑星ではなく、彗星であるのであれば、細かな岩塊や揮発性のガスなど、様々なものをまき散らしながら接近するわけで、こちらの場合は相当の警戒態勢を敷かねばならないということになると思います。問題は彗星ではなく、小惑星の場合はどうなのかということです。

 勿論、この宇宙には「全くの偶然」ということは無限にあるわけですから、これもその1つだというのであれば、そうなのかもしれません。いずれにしても、頭の体操として多角的に考えてみたいと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story