Picture Power

【写真特集】原爆はまだ歴史になっていない 広島・長崎被爆者の「沈黙の痛み」

THE YEAR 1945

Photographs by HARUKA SAKAGUCHI

2019年08月06日(火)11時05分

竹岡智佐子(89) 被爆後、相生橋(あいおいばし)の下に浮く死体の中に母親がいないかと捜していたとき、(自身の)腕に紫色の斑点が見えたが、じきに消えた。数年後に産んだ子供にも同じ斑点が現れ、17日後に死亡した。 (注)年齢は全て撮影時のもの

<原爆を正当化するアメリカの風潮を変えたいと、アメリカ育ちの日本人写真家、阪口悠は2017年に作品の制作を開始。だが被爆者の撮影を重ねるにつれ、考えが変わっていった>

アメリカは、これ以上の犠牲者を出さないために広島と長崎に原爆を投下し、第二次大戦を終結させた──。

アメリカ育ちの日本人である私は、中学校の歴史の授業で学んだこの一節に強い違和感を覚えたが、級友たちは満足げにうなずいていた。私にとって遠い存在だった原爆と、日本人としての自分を意識した瞬間だった。

原爆を正当化するアメリカの風潮を変えたいと、2017年に作品の制作を開始した当初は、被爆者の肖像と体験を記録して後世に残すことが目標だった。

だが撮影を重ねるうち、「沈黙の痛み」を世界に伝えたいと考えるようになった。子孫を差別から守るため被爆を語ってこなかった被爆者や、親に心配をかけぬよう体の不調を隠してきた被爆2世に出会ったからだ。

原爆投下はまだ歴史にはなっていない。しかし今、高齢の被爆者たちが世を去り、記憶の風化が懸念されている。同時に被爆2世たちが引き継ぐ記憶も、政府の原爆症不認定と、それによって彼ら自身が原爆の問題に口をつぐまざるを得ない状況に追い込まれてきたことで、風化の危機にさらされている。

――阪口 悠(写真家)

pp190806theyear1945-2b.jpg

鳥越不二夫(86)
全身に大やけどを負い入院していたとき、隣で母親がハーモニカで子守歌を吹いてくれていたところで意識が戻った。昨年亡くなるまで、講話の後は子供たちにハーモニカを聴かせていた。

pp190806theyear1945-3b.jpg

大越富子(69)
被爆2世。母親は被爆してから2年半後に富子を身ごもったが、水風呂に入ったり重い石を担いだりして中絶しようとしたことを中学生だった富子に明かした。

pp190806theyear1945-4b.jpg

黒板美由紀(66)
被爆2世。荒川クミ子(3ページ目)の娘。母と原爆について話したことはない。

【参考記事】原爆投下を正当化するのは、どんなアメリカ人なのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

グーグル、米テキサス州に3つのデータセンター開設

ワールド

インド、デリーの車爆発事件でカシミール住民逮捕

ワールド

米当局、南部ノースカロライナ州で不法移民摘発開始

ワールド

中国船、尖閣諸島海域を通過 海警局が発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story