コラム

ニューヨークがコロナ前とは別の顔に──大江千里がつづる、NY最新事情

2022年04月23日(土)13時21分

愛犬「ぴーす」と自炊生活に邁進中 SENRI OE

<五番街では有名デパートが相次いで閉店し、イーストビレッジの日系スーパー「サンライズマート1号店」も今月閉店! 治安が悪化し、地下鉄を避けるニューヨーカーの間でイエローキャブ人気が復活か>

もうすぐゴールデンウイークだが、アメリカは全米50州でマスク着用義務が撤廃され、ニューヨークの劇場でもワクチン接種証明の確認義務が廃止された。日本から観光で再訪する人たちも増えるだろう。その人たちにとって、この街は前とは違った表情を見せると思う。

コロナ禍に入る前から、既に五番街の有名デパート「ヘンリ・ベンデル」や老舗高級デパート「バーニーズ・ニューヨーク」が閉店。コロナ禍が始まると多くの飲食店が閉店に追い込まれ、禁酒法時代創業の老舗レストラン「21クラブ」も閉店した。

なかでも衝撃だったのは1995年の開店以来、地元民に親しまれた日系スーパー、サンライズマート1号店が4月3日に閉店したこと。日本からの生活必需品が手に入る貴重な場所だった。理由は家賃高騰だ。

前からニューヨーク全域で借り手の決まらない店舗が増えてはいた。加えてこの憎きコロナだ。だが一方で、職を失い失業保険をもらいながらニューヨークを離れていたワーカーがいまだ完全に戻っていない状態で、街が先に復活してどの職種も従業員が足りないという現象を生んだ。

ニューヨークの食文化は過渡期だ。へこたれないニューヨーカーは新しい挑戦を始めている。レストランのオーナーである友人Aは、自社ビル店だけを残し全店閉店、全ての店のメニューをそこでオーダーできるようにした。別のレストランチェーン経営者の友人Bは、オンラインでシェフを自宅へデリバリーする方式を始め、手ごたえあり。

日常で感じる治安の悪化

イエローキャブも元気だ。ニューヨーカーはもっぱらウーバーを使うが値段が跳ね上がり、イエローキャブの需要がコロナ前より増えた。地下鉄の安全性への不安で陸移動(バス、イエローキャブ、ウーバーなど)を好む傾向もある。

街の回復が早かったのは、コロナ禍に州や国の速やかな補償があったことが大きい。おかげで経営者は即断即決、特に飲食店はアウトドアダイニングなどの策でコロナ前よりもビジネスの幅が拡大。市民も感謝してひいきのレストランをサポートし、マイナス気温のなかアウトドアでダウンジャケットを着て食事した。

しわ寄せは低所得者に行っている。ホームレスが増加し、道ですれ違う人から気軽に「お金くれない?」と声をかけられることも増えた。市長はシェルターをつくるけれど犯罪などは増えている。改札を飛び越える人や、歩道をバイクで走るデリバリー。治安のほころびを感じる。

僕が普段、自炊しているのは外食の値段高騰もあるが街が二極化して前のようにくつろげなくなったから。それに、健康が第一なので家メシに。愛犬ぴに食事2回(朝晩)手作りご飯をあげて、同じ材料で自分にも作る。

チキンの胸肉、人参、ブロッコリー、シイタケ、セロリ......。魚の安い店を見つけて、1匹2ドルほどのサバを家で焼き魚に。

ニューヨークは健在だ。打たれ強いニューヨーカーたちはここぞとばかり支え合ったりして街には前よりも活気のある「音」が聞こえている。自炊については若葉マークの僕だが、新しい時代のこの街に響く音楽をと、今日も奮闘中だ。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

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