コラム

フランス発ユーロ危機はあるか──右翼と左翼の間で沈没する「エリート大統領」マクロン

2024年07月10日(水)20時45分
マクロン

フランスのエマニュエル・マクロン大統領(2月14日、パリ) Antonin Albert-Shutterstock

<なんとか極右を退けたものの、マクロンがもはやレームダックであることも否定できない。その理由とは?>


・フランス議会選挙で左翼連合が第一党になり、メランション代表が新首相に選出される公算が高まった。

・メランションは富裕層増税の他、若年層向け所得補償や医療費の実質無償化など急進的な改革を掲げていて、大規模な財政出動がユーロの信用不安に発展する懸念もある。

・それ以外にもメランションはEUやNATOから距離を置くことや、移民に寛容な政策を主張していて、その影響はヨーロッパにとって無視できない。


フランスのエマヌエル・マクロン大統領は2017年選挙で “右翼でも左翼でもない” とアピールして登場したが、いまや右翼と左翼の間で沈没しつつある。それはユーロの信用不安をはじめ、ヨーロッパ全体の流動化の呼び水になる公算が高い。

レームダックのマクロン

フランス議会選挙は大逆転で極右が敗れた。2回投票制の第1ラウンド(6月30日)で極右政党 “国民連合” は暫定1位に立ったものの、第2ラウンド(7月7日)で3位に沈んだのだ。

この逆転劇を生んだ最大の要因は、他の有力政党が “反極右” で一致したことだ。

第1ラウンドで2位だった左翼連合 “新人民戦線” と、3位だった中道右派連合 “アンサンブル” は、それまでの因縁を超え、第2ラウンドで候補の重複する選挙区での一本化に合意した。

アンサンブル連合にはエマヌエル・マクロン大統領が所属するルネサンス党も参加している。

その結果、577議席中、新人民戦線が188議席、アンサンブルが約161議席を獲得し、反極右連合が議席の過半数を獲得した(国民連合は142議席だった)。

ただし、 “ネオナチ” とも呼ばれる極右の挑戦をかろうじて退けたものの、マクロンがもはやレームダック(死に体)であることも否定できない。

左翼連合を率いるジャン=リュック・メランション代表が、議会で新しい首相に選出されることがほぼ確実だからだ。メランションの方針は本来、マクロンと多くの点で異なる。

「マクロンが大統領であり続けるなら首相が誰になっても同じでは」と思うかもしれない。しかし、フランス首相は大統領によって任命されるものの、議会に対して責任を負う。

つまり、大統領と首相の所属政党が異なる場合、首相は大統領の忠実な補佐役ではなく、むしろ行政権の大半を握る首相のリーダーシップが強くなる。

規制緩和vs.格差是正

その違いがおそらく最も際立つ分野の一つが経済だ。

マクロンは企業経営者としての経歴もある。そのため規制緩和を優先させる傾向が目立ち、例えば企業が従業員をレイオフしやすくする法改正、企業が従業員と待遇について直接交渉できる改革(従来フランスでは労働組合を介在させる必要があった)などを行ってきた。

これと並行して、マクロン政権は財政再建を重視し、燃料税引き上げや年金支給年齢引き上げといった改革にも着手したが、その度に抗議デモが拡大して頓挫した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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