コラム

チョコ好きを待ち受ける「甘くない」未来...「カカオショック」が長期化するとみられる理由

2024年04月10日(水)12時10分

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②カカオ農家のリスク分散

異常気象に関連して、農家の経営方針も無視できない。

南アフリカにあるノースウェスト大学のA.S.オィエケイル博士は2020年、ガーナのカカオ農家が地球温暖化にどのように対応しているかに関する論文を発表し、このなかで調査対象の農家の70.63%が「カカオ以外の作物栽培」を考え、44.18%が「農業以外の仕事」を考えていることを明らかにした。

もともとカカオ栽培の利益は小さく、農家が手にする生産者価格は末端価格の6%程度といわれる(後述)。とすると、「何がなんでもカカオ栽培を続けよう」とはなりにくく、異常気象で農業被害が大きくなれば、リスク分散を検討する農家が出やすくもなる。

さらにオィエケイル博士がこの調査をした後、アフリカではコロナ禍やウクライナ侵攻によって、先進国よりはるかに食糧危機が深刻化している。この状況では、生き残るためにカカオ栽培より食糧生産が優先されても不思議ではない。

③ビジネスチャンスを見出す投資家

そして最後に、カカオの供給減少にチャンスを見出す投資家だ。

カカオ高騰にともない、製菓メーカーや商社だけでなく、「いま買えば儲かる」と考える投資家までが市場に資金を投入することで、カカオ価格はさらに上昇しているとみられる。

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投資家を後押しする情報は多い。例えば米誌Forbesは各国の先物市場でカカオが高騰していた3月27日、「NVIDIA(米半導体メーカー)、Bitcoin、カカオ豆。どれが最上の投資か」と派手な見出しでカカオ投資の有望さを発信した。

それと連動して、ロンドンやニューヨークの先物市場でカカオ豆が急騰した3月末から砂糖やコーヒー豆なども値上がりしている。どちらもチョコレート文化に縁が深い商品だ。

過剰な資金によって、消費の実態をはるかに上回るペースで需要が増え、結果的に末端価格をむやみに高騰させることは、これまでにもさまざまな商品でみられたパターンである。

カカオ生産は簡単に増やせない

それではカカオ豆の歴史的な高騰は収まるのだろうか。

今後チョコレートがさらに値上がりして消費が落ち込んだり、カカオの代替品が登場したり、さらに「高カカオ」ではなく「低カカオ」がトレンドになったりすれば、価格がそれなりに落ち着くこともあり得る。

とはいえ、基本的には消費者がチョコレートを諦めると思えない。

とするとカカオ生産を増やせるかがポイントになるが、残念ながら短期間には見込みが薄い。それは地球温暖化がすぐ改善する公算が低いことだけが理由ではない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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