アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ米政権との関係

9月3日、 中国の習近平国家主席が天津で今週主催した首脳会議で、インドのモディ首相はロシアのプーチン大統領と握手を交わした。写真は1日、天津で談笑する3首脳。代表撮影(2025年 ロイター)
Trevor Hunnicutt David Brunnstrom Matt Spetalnick
[ワシントン 3日 ロイター] - 中国の習近平国家主席が天津で今週主催した首脳会議で、インドのモディ首相はロシアのプーチン大統領と握手を交わした。その様子を写した写真は、多くの専門家が既に出していた結論を裏付けているようだった。インドを自国の外交圏に引き込もうとする米国の試みが失敗に終わった、ということだ。
歴代の米政権は、長年の非同盟であるインドを、中国とロシアに対する戦略的対抗勢力に育てようと努めてきた。
しかし天津でのモディ首相の姿が物語るように、トランプ米大統領は今、一連の行動によって自らその目標達成を遠ざけているようだ。トランプ氏は、インド製品に50%の高関税を課したり、ロシア産石油を購入するインドを公然と威圧したりしてきた。
トランプ氏が中国、ロシア、北朝鮮との関係をリセットしたいと望んでいるが、これら3カ国は結束を強めている。インドとの関係悪化は、そうした中で進行している。3日に北京で開かれた抗日戦勝80年の記念行事で、中ロと北朝鮮の3カ国首脳は初めて公の場にそろって姿を見せた。
モディ氏はロシアとの関係を縮小するどころか強化する姿勢を見せ、さらには中国との間にあった疑念も水に流すことで、トランプ氏にシグナルを送った。
ブッシュ(子)政権でホワイトハウス勤務経験があり、現在はカーネギー国際平和財団に所属するアシュリー・テリス氏は「両指導者(トランプ氏とモディ氏)とも関係修復に必要な個人的接触を拒んでいるため、長期的な悪循環にはまり込む恐れがある」と案じる。
テリス氏はまた「現在の問題は、トランプ氏のインドに対する不満が深まっていることだ。今後考えを変える可能性はあるが、現時点では中国と貿易協定を結ぶことが最優先事項であり、他の地政学的問題は後回しになっている」と述べた。
インドは、自国の貿易提案がトランプ氏に拒否される一方で、宿敵パキスタンが同氏に称賛されたことに苛立ちを募らせている。インドが2国間の問題と見なすパキスタンとの緊張関係を巡り、トランプ氏が仲介の功績を主張したことも、インド側の屈辱感を深めた。
米ブルッキングス研究所のインド専門家、タンビ・マダン氏は、プーチン氏を米国に招いて会談し、習氏との会談も計画しているトランプ氏が、プーチン氏や習氏と会談したモディ氏を批判したことがインド側にとって奇異に映ったと説明する。
「批判したり圧力を加えることによって戦略的自律性を求めるインドの本能を変えることはできない。それどころか、その傾向はますます強固になるだろう」という。
<中印関係>
モディ氏と習氏の関係改善は、長年にわたる両国間の緊張を踏まえると、特に印象的だ。モディ氏の訪中は7年ぶりだった。
中国、インド、ロシアはいずれも、トランプ氏が「反米」グループと呼ぶBRICSの創設メンバーだ。もう1つのBRICS加盟国であるブラジルも、インドと同様に米国の重要なパートナーだったが、今ではトランプ氏の標的となって厳しい関税を課されている。
インド、中国、ロシアの連帯外交についてナバロ米大統領上級顧問(貿易・製造業担当)は1日、「世界最大の民主主義国の指導者であるモディ氏が、世界最大の権威主義的独裁者であるプーチン、習両氏の陣営と結託する姿を見るのは残念だ」と述べた。
トランプ氏の顧問らは、インドに対するトーンの変化は同国から距離を置くことを意図したものではなく、パートナーである同国と率直に話すのが目的だと説明している。
<クアッドを巡るリスク>
トランプ氏は政権第1期にインドへ接近し、2019年にはテキサス州でインド系米国人コミュニティーのイベント「ハウディ・モディ」を開いてモディ氏を招いた。また、日米豪印の協力枠組みクアッドを復活させた。
昨年11月の米大統領選でトランプ氏が勝利した後、モディ氏は即座に良好な関係の復活を図った。勝利から数時間以内に祝意を伝える電話をかけ、就任式には外相を派遣。トランプ氏が支援するソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」にもアカウントを開設した。ただし、7月以降は使っていない。
しかしトランプ氏はすぐに貿易不均衡と移民問題を巡ってインドを攻撃し始めた。モディ氏が2月にワシントンを訪問した際に貿易が明確な焦点となり、両国は今秋までに限定的な貿易協定の締結を目指すことで合意。2030年までに二国間貿易を5000億ドルに拡大する目標を立て、インドは米国からのエネルギー購入拡大を約束した。
インドは11月にクアッド首脳会合を主催し、以前よりも公然と対中安全保障に焦点を絞る予定だが、関係者によれば、トランプ氏はまだインド訪問の日程を調整していない。
トランプ氏は11月を期限とする中国との関税合意に照準を定めていることもあり、クアッド会合を危ぶむ声も出始めている。
テリス氏は「現時点では、トランプ氏の世界観において、クアッドを必要とするような大国間の競争は存在しない」と語った。
米・インド関係の修復には、関係を壊す以上の努力を要するかもしれない。
オバマ前米大統領の外交政策顧問を務め、現在はコンサルタント会社、グローバル・シチュエーション・ルームの代表を務めるブレット・ブルーエン氏は「インドは歴史的、政治的、経済的理由からトランプ氏に単純に従わない国の典型例だ。同国には他の選択肢がある」と話した。