コラム

チョコレート価格上昇の影にある「カカオ同盟」の戦い

2023年02月14日(火)17時15分
バレンタインチョコ

長年ほとんど価格が変わらなかったチョコレートもついに値上げ(写真はイメージです) hiroyuki_nakai-shutterstock

<昨年10月、カカオ豆の生産量上位2カ国コートジボワールとガーナはベルギーで開催された世界カカオ基金の会議をボイコットした。アフリカのカカオ関連団体も「カカオ豆への支払いを増やすべき」と声を上げた>


・物価高騰のなかでチョコレートも値上がりしているが、主な原料であるカカオ豆の取引価格はこの数年大きく変わっていない。

・カカオ豆取引では買い手の交渉力が強いため、大生産国は生産者価格の引き上げを海外企業に求めてきた。

・スクラムを組んだ生産国のプレッシャーによってカカオ豆取引価格が見直される可能性も大きくなっている。

値上げラッシュが続くなか「原材料価格の高騰」という理由をよく聞くが、全ての原材料の取引価格が値上がりしているわけでもない。

チョコ値上がりは限定的

最近はさすがに義理チョコを配る職場も減ったようだが、相変わらず日本ではバレンタインデーの本来の主旨とは無関係に、2月14日前後にチョコレートがやたらと目立つ。しかし今年は他の多くの商品と同様、チョコレートも値上がりしている。

mutsuji230214_chart1.jpg

チョコレートの値段は長年ほぼ横ばいだったが、2015年頃から少しずつ値上がりし、これが昨年から急加速したのだ。そこにはウクライナ侵攻をきっかけとする世界経済の混乱がみてとれる。

ただし、この値上がりは限定的ともいえる。というのは、チョコレートの主な原料であるカカオ豆の取引価格はほとんど変わっていないからだ。

実際、カカオ豆の国際市場における平均価格は1トンあたり約2,500ドル弱を推移し、この5年間ほぼ横ばいのままだ。

mutsuji230214_chart2.jpg

カカオ豆の価格がほとんど変わらないのにチョコレートが値上がりするのは、原油価格の高騰による輸送コストの上昇や、食用油などその他の原料の値上がりによるとみられる。

逆にいえば、カカオ豆が値上がりすれば、チョコレートの値上がりはさらに進むことになる。

なぜカカオ豆は値上がりしないか

ここでの問題は、「なぜカカオ豆の値段はあまり変化しないか」だ。

一般的な経済学のテキストでは、価格は需要と供給のバランスで決まると説明される。この観点からみれば、カカオ豆の需要は伸び続けていて、むしろこれまでに価格が上昇していてもおかしくなかった。

チョコレートの市場規模は世界全体で2021年に過去最高の約466億ドルに達した。コロナ禍のステイホームでむしろ消費が伸び、さらにアジアや中東の新興国もマーケットとして拡張しつつあるため、その市場規模は2029年までに約678億ドル相当にまで達すると試算されている。

mutsuji230214_chart3.jpg

これに応じて、カカオ豆の生産量も世界全体で増えているものの、需要の伸びをカバーするほどではない。つまり、需要が供給をやや上回る構図があるわけで、だとすればカカオ豆があまり値上がりしてこなかったのは経済学の一般常識からすればやや奇異に映る。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story