コラム

G20にアフリカ連合が加入──大国も新興国も「アフリカの友人アピール」する意味とは?

2023年09月11日(月)13時45分
コロモのアスマニ大統領を歓迎するインドのモディ首相

コロモのアスマニ大統領を歓迎するインドのモディ首相(9月9日) Evan Vucci/Pool via REUTERS

<加盟国のほとんどが援助を受け取る立場にもかかわらず、満場一致で迎えられた最大の理由は?>


・アフリカ各国が加入するアフリカ連合(AU)がG20メンバーとして迎えられた。

・貧困国の集合体であるAUが大国の集うG20のメンバーに迎えられたことは、どの国も「自国こそアフリカの友人」とアピールしたい結果である。

・先進国も新興国もAUのG20加入を歓迎する点では一致するが、「友人アピール」によってアフリカが自分達に協力的になることをそれぞれ期待しており、その目的は全く食い違っている。

アフリカ連合(AU)がG20に加入したことは、大国がそれぞれアフリカに気を遣っているとアピールしなければならない状況を物語る。

アフリカ連合のG20加入

ニューデリーで開催されたG20サミットで9月9日、AUの加入が正式に発表された。サミット開会式で開催国インドのモディ首相は「これは共同の精神に基づくものだ」と述べ、AU議長国コモロのアスマニ大統領に座席を勧めて着席を促した。

AUはアフリカ大陸55カ国が加入する地域機関だ。G20は先進国や新興国19カ国とヨーロッパ連合(EU)をメンバーにしてきたが、地域機関としての加入はEUに続くものである。

AUの加入は各国の合意に基づくもので、メンバー国首脳は相次いで歓迎のメッセージを発した。例えば、バイデン大統領は「アフリカとはあらゆる問題を議論できる」と述べ、G20サミットを欠席した中国の習近平国家主席も8月にセネガルのサル大統領との会談で支持を表明していた。

サルはアフリカ各国の首脳のなかでもとりわけAUの拡大や国際的発言力の向上に熱心で、「統一されたAUのGDPは世界8位の規模に当たる」と主張し、これまでもG20加入を各国に働きかけてきた。

アフリカでは2019年、大陸規模での取引を自由化するアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)設立協定が発効し、2021年から段階的に運用を開始している。その範囲には14億人の人口と世界全体のGDPの10%をカバーしている。

しかし、なぜか

とはいえ、である。貧困国の多いアフリカの地域機関がG20に加入することに疑問や違和感が持たれても不思議ではない。

もともとG20は2008年のリーマンショックをきっかけに世界が金融危機を迎えるなか、主な先進国と新興国が集まって発足した。日米を含む主要先進国で構成されるG7が、それまでのように世界経済の舵取りをできなくなり、「リーダーシップなき世界」がいわれる状況でG20は生まれたのだ。

そこには中ロをはじめ、インド、南ア、ブラジルなどのいわゆるBRICSの他、インドネシア、サウジアラビア、アルゼンチンなど各地の新興国も含まれる(このうちサウジとアルゼンチンは先日BRICS加入が決定した)。G20のメンバーは世界のGDPの85%と2/3の人口をカバーする。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story