コラム

アフリカ4カ国歴訪の岸田首相、687億円の拠出にどんな意味が

2023年05月09日(火)19時00分
ケニアのルト大統領と岸田首相

ケニアを訪問してルト大統領と握手する岸田首相(5月3日、ナイロビ) Monicah Mwangi-REUTERS

<岸田首相が約束した資金協力について、SNSを中心に「大盤振る舞い」との批判も見られるが、国家予算を投入する以上、当然「自国の影響力を増すため」という外交目標が含まれる。ただし、5億ドルが本当にムダになる可能性も>


・岸田首相はアフリカに3年間で5億ドルの資金協力を約束したことに、国内では懸念や不安もある。

・もっとも、資金協力のほとんどは貸付と民間投資で、良し悪しはともかく「自腹をきる」部分は小さいとみられる。

・ただし、中ロの牽制を念頭に、G7での評価だけを意識して資金協力を約束し、今後の対応がおざなりになるなら、5億ドルは本当にムダになるとみられる。

岸田首相がアフリカを訪問し、5億ドル(約687億円)の資金協力を約束した。諸物価が高騰するなか複雑な思いを抱く人も多いだろうが、日本が今後アフリカをおざなりにするなら、この資金協力は本当にムダになるといえる。

アフリカへの協力は必要なのか

岸田首相は5日、アフリカ歴訪から帰国した。今回、岸田首相は4月30日のエジプトを皮切りに、約1週間かけてガーナ、ケニア、モザンビークのアフリカ各国を巡った。

mutsuji230509_map.jpg

その最中の5月2日、ガーナのアクフォ=アド大統領との会談で、岸田首相はアフリカ各国に対して3年間で5億ドルの資金協力を行うことを約束した。

昨年8月の第8回東京アフリカ開発会議(TICAD8)で日本政府はアフリカに対して「3年間で300億ドルの協力」を約束していた。今回の約束は、これに追加したものだ。

こうした資金協力が国内で好意的に受け止められているとは限らない。昨年のTICAD8の際もそうだったが、今回もSNSを中心に「日本が大変な時期に」といった懸念や疑問が噴出したからだ。

そうした言い分も理解できなくはないが、その一方で大きなカン違いも見受けられる。

こうした懸念や疑問には「日本がタダで(しかも善意100%で)資金を渡している」という思い込みがあるとみられる。

しかし、日本政府はそれほど気前よくもなければ、博愛精神に富んでいるわけでもない。

日本の資金協力は「貸す」中心

そもそも援助には贈与(返済義務はない)と貸付(返済義務がある)の2種類があるが、日本は他の先進国と比べて貸付の割合が高い。

経済協力開発機構(OECD)の統計によると、2022年に先進国(開発援助委員会[DAC]加盟国)29カ国が途上国向けに提供した政府開発援助(ODA)は総額2039億ドルで、このうち日本からのものは約174億ドル(約8%)だった。

ところが、同じ時期に先進国が提供した二国間貸付は総額約142億ドルだったが、日本はそのうちの約89億ドル(約62%)を占めた。

つまり、その良し悪しはともかく、欧米諸国が「あげる」タイプ中心なのに対して、日本は圧倒的に「貸す」タイプが多いのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米経済「まちまち」、インフレ高すぎ 雇用に圧力=ミ

ワールド

EU通商担当、デミニミスの前倒し撤廃を提案 中国格

ビジネス

米NEC委員長、住宅価格対策を検討 政府閉鎖でGD

ビジネス

FRB責務へのリスク「おおむね均衡」、追加利下げ判
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story