大地震後トルコで広がる外国人ヘイトと暴力──標的にされるシリア難民

トルコ・ハタイでの救助活動(2月14日) Clodagh Kilcoyne-REUTERS
<治安悪化でオーストリア軍とドイツの連邦技術支援隊は救助活動を一時停止。シリア難民が「魔女狩り」のターゲットに>
・大地震が発生した後、トルコでは略奪だけでなく「シリア人が犯人」と決めつける論調も広がっている。
・シリア難民を毛嫌いする極右勢力のヘイトメッセージは、シリア人への暴行やリンチをも増やした。
・この問題は以前からの政治対立を背景にしており、未曾有の災害に直面するトルコにとって大きな課題となっている。
大災害に見舞われたときにマイノリティが「魔女狩り」の標的にされることは珍しくない。2月6日に大地震が発生した後、トルコで広がるシリア難民への憎悪と襲撃は、国際的な救助活動の妨げにもなりかねない。
救助活動を妨げる暴力
トルコ南部ハタイに派遣されていたオーストリア軍とドイツの連邦技術支援隊は2月11日、被災地での救助活動を一時停止した。現地の治安悪化が理由だった。
ハタイに限らずトルコ各地では援助物資や商業施設、さらに一般住宅などを狙った略奪が横行しているだけでなく、「盗っ人」へのリンチや拷問も相次いで報告されている。
TwitterをはじめSNSにはこうした動画が次々とアップされているが、「盗っ人」とみなされた者が群衆に暴行されて流血するなど、あまりに凄惨で生々しい映像が多く、次々と削除されるイタチごっこが続いている。
トルコ政府は当初、略奪そのものを否定し、救助活動を一時停止したオーストリアやドイツを批判していた。
しかし、略奪が数多く報告され、「政府が市民を保護できていない」という不満が噴出するなか、トルコ政府もこれを無視できなくなった。
その結果、2月12日には略奪の容疑で64人を逮捕するなど、トルコ当局も取り締まりを強化している。
沸き起こるヘイト
治安が悪化するなか、とりわけ「盗っ人」とみなされやすいのが、シリアやアフガニスタンからの難民だ。
その一つの引き金になったのは、イスタンブール技術大学のO.A.エルジャン教授が2月8日、Twitter上で「シリア人が被災地の支配者になっている」と述べ、ハタイなどシリア難民の集中している土地が「国家安全保障の問題を引き起こしている」と主張したことだった。
略奪にかかわり、暴行される者にはトルコ人も多く、エルジャン教授の主張は露骨なヘイトメッセージだが、6万以上の「いいね」がついただけでなく、今も削除されていない。
こうして広がる反シリア感情により、今でもTwitterなどのSNSには「盗っ人のほとんどはシリア難民」といった書き込みが目立つだけでなく、「薬を持っていたら'盗んだのだろう'と言われて集団で暴行された」「自分たちは盗っ人じゃない」といった、トルコに暮らすシリア人の叫びが溢れている。
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