コラム

難民受け入れに消極的な日韓は「五十歩百歩」

2020年07月29日(水)16時45分
李 娜兀(リ・ナオル)

日韓の難民への意識は変わる?(昨年の難民の日デモ、東京) KIM KYUNG HOON-REUTERS

<70年代にインドシナ難民を受け入れた日本と、それから約10年遅れで難民問題に取り組んだ韓国。しかし今日、両国の難民への視線はいずれも厳しいものに>

娘が高3にもなると、会話をしていて私自身も勉強になることがしばしばあり、自分が娘の年齢に近かった頃の興味や関心を思い出させてもくれる。6月20日の「世界難民の日」。娘は授業で、日本における難民受け入れ問題について議論したそうだ。

その話を聞いてふと思い出し、昔のファイルを探してみると、10代後半から20代前半の頃に感動した新聞記事の切り抜きを見つけた。昨年亡くなった緒方貞子国連難民高等弁務官(当時)に関するものだ。高校、大学を通じて日本語を学び、日本に関心があったこと、そしてまた同じアジアの女性が国連の大きな舞台で活躍していることに感動したためだろう。当時の私は、朝鮮日報や韓国日報など韓国紙に掲載された緒方さんの記事をいくつも切り抜いていた。

記事には緒方さんの業績や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の課題のほか、緒方さんが日本に対して難民支援を強化するよう強く求めたことなどが書かれている。

日本は1970年代以降にインドシナ難民を1万人ほど受け入れ、1981年に国連難民条約に加入した。1982年に内閣府政府広報室が行った世論調査を見ると、インドシナ難民について「援助すべきだ」という回答は73.6%で、当時の定住枠から「さらに増やすべきだ」も49.9%と、「増やすべきではない」の29.1%を上回っている。

韓国が国連難民条約を批准したのは、それから約10年遅れの1992年だった。その際、韓国は日本の入管法をモデルに出入国管理法を改正し、難民認定に関する条項を新設したとされている。とにかく、私が緒方さんの活躍に魅了されていた頃、難民問題について日本は韓国よりずっと進んでいるという印象だった。

しかし、その後、韓国でも難民問題に関する意識が少しずつ高まった。人権問題である難民の処遇を出入国管理法で規定するのはそぐわないとの議論から、支援団体や弁護士も法案作成に関与する形で、2013年に難民法が施行された。難民認定の手続きの迅速さや透明性の点で前進したとされている。

2018年の統計を見ると、日本では難民申請者が1万493人に対して認定されたのは42人、一方の韓国は申請者が1万6173人に対して認定者は144人だった。若干、韓国の認定数が多い。

ただ、ここで私は「韓国のほうが進んでいる」などと言いたいわけではない。実は、難民受け入れに対する目が最近になってむしろ厳しくなっているのは、日韓ともに共通しているように見えるからだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story