コラム

G20にアフリカ連合が加入──大国も新興国も「アフリカの友人アピール」する意味とは?

2023年09月11日(月)13時45分

一方、アフリカのほとんどの国は援助を受け取る立場だ。さらに近年ではコロナ禍とウクライナ戦争をきっかけに、債務返済に行き詰まってデフォルトを宣言する国も現れている。

それにもかかわらずAUが満場一致で迎えられた最大の要因は、大国がこぞって「アフリカの友人」をアピールしたいことにある。

「アフリカの友人」アピール競争

ウクライナ戦争をきっかけに、グローバルサウスと呼ばれる途上国・新興国の多くが先進国と中ロの間で中立路線を目指していることは広く知られるようになった。

なかでもアフリカは国の数が多く(国連加盟国の約1/4)、昨年3月の国連総会におけるロシア非難決議でも賛否がほぼ半々に分かれた。

そのため世界が不安定化するにつれ、先進国であれ中ロであれ、あるいはインドやブラジルなどの独自路線を歩む新興国であれ、国際的な発言力を増すためにアフリカの支持を集めようとすることは不思議でない。

今回のG20サミットにはプーチン大統領だけでなく習近平主席も欠席した。

しかし、まとめられた共同宣言ではウクライナ戦争による食糧価格高騰などへの言及はあったものの、ロシアに対する直接的な批判が封印された。そこにロシアと歴史的に近い立場にある議長国インドだけでなく、中立的なグローバルサウスの意向があったことは疑いなく、これを先進国も無視できない状況をうかがえる。

このようにウクライナ戦争は大国のアフリカへの配慮を加速させるきっかけになったものの、大国のアプローチ競争そのものは最近の現象ではない。

そこで一つの手段となるのは、アフリカを「パートナー」として認知(実態はともかく)し、「自国こそアフリカの友人」とアピールすることだ。

例えば2011年、アメリカのクリントン国務長官(当時)はザンビアを訪れ、資源を持ち出すだけの「新しい植民地主義」に警戒するよう警告した。これが中国を念頭に置いたものであることは明らかだった。これに対して、中国もしばしば欧米を植民地主義的と批判してきた。

外部の大国がこうしたネガティブキャンペーンをお互いに展開し、「友人アピール」を競うのは、国際的に無視されやすいことへの不満がアフリカにあることの裏返しといえる。

ナイジェリアのタッガー外務大臣は米メディアのインタビューに対して「植民地時代から現代に至るまで、アフリカが'幼児化'されてきた」と語っている。つまり、「遅れている」「未開発」といったイメージに基づき、「アフリカは大国の決めたことに黙ってついてくればいい」と扱われてきたというのだ。

こうした不満をすくいあげ、アフリカを惹きつけようと、米中をはじめ多くの大国はこれまでも「友人アピール」を競ってきたのである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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