コラム

「スーダン内乱の長期化でコーラなど炭酸飲料が値上がりする」は本当か

2023年05月11日(木)17時40分
コーラ

(写真はイメージです) champpixs-iStock

<スーダンが大生産国で、コーラなど炭酸飲料の製造に不可欠なアラビアゴムだが、大幅な値上げが必要になるほど供給量が減少するかといえば疑問の余地がある。その最大の理由とは?>


・コーラなど炭酸飲料の生産に欠かせない香料アラビアゴムの主要産地はスーダンである。

・そのため、スーダンの内乱が長期化すれば、コーラなどの値上がりする可能性があると報じられている。

・しかし、もともとスーダンにあった闇取引が内乱で加速する公算も大きく、コーラが大幅に値上がりするかには疑問もある。

「スーダン内乱が長期化すれば香料アラビアゴムが値上がりし、それがコーラなど炭酸飲料の値上がりにつながる」と欧米のいくつかのメディアで報じられているが、この議論には見落としもある。

「スーダン内乱でコーラ値上がり」

北東アフリカのスーダンで4月半ばから続く戦闘は、停戦合意が交わされながらも、現在に至るまで止んでいない。

この内乱は、軍事政権の実権を握るブルハン将軍率いる国軍と、それに反旗を翻したダガロ司令官の民兵組織「即応支援部隊(RSF)」との間の権力闘争だ。

ウクライナや台湾などと異なり、アフリカの紛争はそもそも外部の関心を集めにくい。しかし、それでも外部が何の影響も受けないとは限らない。

英ロイターは4月末、「スーダン内乱が長期化すれば、コーラなど炭酸飲料が値上がりする可能性がある」と報じた。スーダンは炭酸飲料の生産に欠かせない香料アラビアゴム(アラビアガム)の大生産国で、その生産量が世界全体の60%以上と推計されているからだ。

アラビアゴムはコーラなど炭酸飲料の製造で不可欠であるため、「ペプシやコカコーラはアラビアゴムなしに存在できない」という指摘もある。

「黄金の涙」アラビアゴム

ここでアラビアゴムについて少し詳しくみておこう。

アラビアゴムはマメ科アカシア属の植物の樹液を固めたものだ。オレンジがかった半透明の樹液が固まった形状から「黄金の涙」とも呼ばれる。

アフリカ大陸の北緯10〜20度付近のチャド、南スーダン、ナイジェリアなどで生産されており、この地域は「ゴムベルト」とも呼ばれるが、その中でもスーダンのシェアは大きい。

アラビアゴムは乳化力が高く、本来は混じらない原料を均一にする効果があるだけでなく、コーティング機能も優れている。そのため、ゼリーやチョコレートといった菓子類だけでなく、医薬品、化粧品、水彩画の溶液などにも用いられている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、国債補完供給で減額措置の上限再引き上げに慎重

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ワールド

ドイツ経済、低成長続く見通し 財政拡大でも勢い限定

ワールド

小泉防衛相、ヘグセス米国防長官と12日に電話会談
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story