コラム

ウクライナ「義勇兵」を各国がスルーする理由──「自国民の安全」だけか?

2022年03月07日(月)20時40分
ウクライナのゼレンスキー大統領

ウクライナのゼレンスキー大統領(2022年3月1日) Umit Bektas-REUTERS


・ウクライナ政府は世界に向けて、ロシアと戦う「義勇兵」を募っているが、各国政府はこれに慎重な姿勢を崩さない。

・ウクライナには2014年以降、すでに「義勇兵」が数多く集まっていたが、戦争犯罪や人種差別といった問題が指摘されてきた。

・各国政府には、「義勇兵」として実戦経験を積んだ者が帰国した場合、自国にとって逆にリスクになるという懸念があるとみられる。

ウクライナ政府が「義勇兵」を呼びかけているのに対して、どの国の政府もうやむやの反応が目立つ。そこには「自国民の安全」という表向きの理由以外にも、「義勇兵」が逆に自国の安全を脅かしかねないことへの懸念がある。

「義勇兵」呼びかけへの警戒

ロシアによる侵攻に対抗して、ウクライナ政府は外国から「義勇兵」をリクルートしている。ゼレンスキー大統領は「これは...民主主義に対する、基本的人権に対する...戦争の始まりである...世界を守るために戦おうという者は、誰でもウクライナにやってくることができる」と述べた。

さらにウクライナ政府によると、「参加者には月額3,300ドルが支給される」。これに対して、欧米では退役軍人を中心に呼応する動きがあり、在日ウクライナ大使館にもすでに70人ほどの応募があったという。

ところが、各国政府はロシアを強く非難し、ウクライナ支援を鮮明にしながらも、「義勇兵」には目立った反応をみせていない。日本政府も「理由にかかわらずウクライナに渡航しないこと」を求めている。

そこに「自国民の安全」への配慮があるのは確かだ。また、たとえ非正規兵でも自国民がウクライナで戦闘にかかわれば、自国もロシアと交戦状態になりかねないという懸念もあるだろう。

しかし、それ以外にも、先進国とりわけ欧米には「義勇兵」が自国の過激派の育成になりかねないことへの警戒があるとみられる。

ウクライナに生まれた極右の巣窟

なぜウクライナ「義勇兵」が欧米の過激派の育成になるのか。端的にいえば、これまでに「自由と民主主義のため」というより「白人世界を陰謀から守るため」ウクライナに集まる者が数多くいたからだ。

「ウクライナもロシアも白人の国では?」と思われるかもしれないので、複雑な事情を多少なりともわかりやすくするため、以下では事実を箇条書きにして並べてみよう。

「義勇兵」はすでにいた

・2014年のクリミア危機をきっかけに、ウクライナでは祖国防衛を掲げる民兵がロシア軍と戦闘を重ねた。

・その代表格であるアゾフ連隊には、欧米各国から活動家が次々と加わり、その数は2015年段階で総勢1,400人にも及んだ。

・クリミア危機の後も、東部ドンバス地方ではロシアに支援される分離主義者とウクライナ側の戦闘が断続的に続き、アゾフなどはその最前線に立ってきた。

・そのなかでアゾフなどの民兵には、捕虜の虐殺といった戦争犯罪が指摘されてきた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物が堅調、米原油在庫減で

ビジネス

金融政策の手法は日銀に委ねられるべき=べセント氏投

ワールド

韓国大統領、保護主義とナショナリズムの高まりに警鐘

ワールド

ブラジルで自動車生産が一部停止も、半導体供給危機が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 5
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 9
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 10
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story