アングル:欧州への不法移民20%減少、対策強化でもいたちごっこ

今年になって欧州に流入する不法移民の数は減少しているが、専門家は今後も流入自体を食い止めることはできないと予想している。写真は地中海の国際水域でNGOに保護された移民19人が乗ったボート。2024年8月撮影(2025年 ロイター/Juan Medina)
Beatrice Tridimas
[ロンドン 13日 トムソン・ロイター財団] - 今年になって欧州に流入する不法移民の数は減少しているが、専門家は今後も流入自体を食い止めることはできないと予想している。世界各地で紛争や経済的な困窮が拡大し、厳しくなった国境監視の網を逃れる新たなルートも次々開拓されているためだ。
欧州連合(EU)傘下の欧州国境沿岸警備機関(フロンテクス)によると、今年上半期に域内へ入った不法移民は20%減少。経由国間の協力強化が功を奏したという。
2015年のいわゆる難民危機において100万人が欧州に殺到して以来、EUは不法移民への対応を厳格化し続けている。
しかし複数の専門家は、不法移民側もEUのそうした対応に順応し、密航業者への依存を高めたり、より危険なことが多い新ルートを利用するようになったと指摘する。
実際、全体の流入量は減ったものの、欧州に至る全てのルートで一様に減少したわけではない。
調査機関ミックスド・マイグレーション・センターのジェニファー・バランティン氏は「1つのルートが消えても、別のルートが登場ないし再登場するのが常だ」と話す。
2022年と23年に欧州への不法移民は16年以降で初めて30万人を超えたが、昨年は24万人に減少した。しかし今年はリビア・ギリシャ間の「新地中海ルート」が出現し、クレタ島に7000人余りがたどり着いた。
これに対してギリシャ政府は不法入国を処罰し、難民申請受け付けを一時停止する新たな法律を提案している。
しかしバランティン氏は「厳しい規制も移住のニーズや願望を阻止できない。不法入国しか手段がない人々にとっては、密航あっせん事業への需要は絶えないだろう」と指摘した。
<流入経路の変遷>
過去10年間を見ると、欧州に向かうには地中海のどこかを渡るか、ギリシャ・トルコの国境を越えるという道筋は一貫している。
ただ人々は監視の目や国境管理が強化された地点を避けようとするため、個別のルートごとの通行量は変動してきた。
シンクタンクの欧州政策センターのヘレナ・ハーン氏は、EUが主要な流入地点を抑え込む取り組みを進めてきたと説明する。
地中海ルートの主な出発地となっているリビア、チュニジア、エジプトとの間でEUは協定を結び、これらの国に不法移民を規制してもらう代わりに資金を提供したり、国境管理当局へ高速艇や監視システムを提供したりしている。
ハーン氏は「北アフリカ諸国との協力は移民流入縮小に一定の役割を果たしたのは間違いない」と述べた。
EUとトルコが16年に不法移民対策に合意して以来、主なルートとなっていた北アフリカからイタリア、マルタに至る「中部地中海ルート」を通じた不法移民流入は、23-24年に58%減少した。国際移住機関(IOM)は海上で阻止される密航船が増え、リビアとアルジェリアに送り返されていることが原因だとの見方を示した。
ところがIOMによると、そうしたEUと北アフリカ諸国の努力の裏で、今度は西アフリカからスペインのカナリア諸島を目指す「大西洋ルート」の利用が活発化してしまったという。
<より危険な経路へ>
EUは過去10年で不法移民の監視システムや検知機器整備に多額の費用を投じ、フロンテクスの人員を域外との境界や加盟国間の国境に配置してきた。
ギリシャに到着した移民希望者がバルカン半島諸国の険阻な道筋をたどって西欧に至る「西バルカンルート」がこうした対策の標的になり、フロンテクスの報告に基づくと、検知された不法移民の通行量は23年比で78%も少なくなった。
ただ国際的な人道支援団体インターナショナル・レスキュー・コミッティー(IRC)の分析によると、このルートの通行量の減少は16%にとどまり、検知されないように移動している人々が増えていることがうかがえる。
IRCのマルタ・ルッソー氏は、流入を抑止する地点を多くしても、人々をより危険なルートに導くだけだと言い切った。
バランティン氏は「(欧州の)対症療法的なアプローチは移民(受け入れ)が不可避かつ有益だと認識できていない。正規の利用可能な道筋が確立されるまで、不法移民がなくなることはなく、密航あっせん組織が手助けを続ける」と主張し、発想の転換が必要だと訴えた。