コラム

タリバン大攻勢を生んだ3つの理由──9.11以来の大転換を迎えるアフガニスタン

2021年08月17日(火)09時55分

カブール空港の外で群衆を追いかけるタリバン戦闘員(8月16日) REUTERS TV/via REUTERS


・アフガニスタンは米軍撤退とタリバンの猛攻により、9.11以来の大転換を迎えている。

・タリバンの大攻勢は米軍撤退だけでなく、これを食い止めるべきアフガニスタン政府・軍の無気力・無力によっても加速してきた。

・さらに、タリバンが経済的に自立したことで、外部から影響を受けにくくなったことも、大攻勢につながっている。

アフガニスタン軍より兵力に劣るはずのタリバンは、なぜ各地の主要都市を次々と制圧できたのか。そこには大きく3つの理由があげられる。

カタストロフの淵へ

タリバンは8月15日、ついに首都カブールを包囲し、アフガニスタン政府と権力の委譲について交渉を始めた。アフガニスタンは今、対テロ戦争が始まった2001年以来の大変動を迎えている。

イスラーム武装組織タリバンは各地の主要都市を次々と制圧し、今やアフガニスタンの3分の2はタリバンの支配下にあるといわれる。

戦闘が激化するなか、国外脱出を目指す人々がカブール国際空港に押し寄せている他、各国の大使館に難民申請をするために詰めかけている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、アフガンでは昨年暮れまでに290万人が避難民になっていたが、今年の初めからの戦闘でさらに40万人増えた。

こうした状況にグテーレス事務総長は13日、アフガニスタンが「制御を失っている」と表現して戦火の拡大に懸念を示し、「真剣な交渉を行なうべき時」と指摘した。欧米メディアではタリバン大攻勢でカタストロフ(崩壊)が近いという論調が目立つ。

「もはやテロリストではない」

タリバン兵の総数はおよそ6万人、それに協力する民兵を含めても20万人程度と推計され、アフガニスタン軍の30万人より少ないと見積もられている。

それにもかかわらず、なぜタリバンはアフガン全土を掌中に収めつつあるのか。そこには大きく3つの理由がある。

第一に、アメリカ撤退による勢いだ。

昨年3月、当時のトランプ政権はタリバンとの間で和平合意を締結した。ここでは戦闘停止、タリバンが国家再建についてアフガニスタン政府と交渉することなどの条件と引き換えに、米軍の撤退が約束された。

2001年に発生したアメリカ同時多発テロ事件とそれを契機としたアフガニスタン侵攻の後、米軍はアフガニスタンの政府・軍を支援しながら、タリバン掃討作戦を続けてきた。しかし、地方に根を張ったタリバンのテロ攻撃に手を焼いた米軍は、結局撤退に追い込まれたのである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ワールド

北朝鮮、日米韓の安保協力強化を批判 「アジア版NA

ワールド

ウクライナ東部最後の要衝巡り戦闘激化、陥落の可能性

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに減少=ベー

ワールド

中国が米国人の入国規制緩和へ、第3国経由の入国も可

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:広がるインフレ 世界経済危機

2022年7月 5日号(6/28発売)

急激なインフレ、食糧・エネルギー不足、米バブル崩壊...... 「舵取り役」なき世界経済はどこへ

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    寝たふりする私の横で、私の英語を真似して笑うネイティブたち...その真意に後から気付いた

  • 2

    【映像】頭部に銃創と見られる傷のあるホホジロザメ

  • 3

    【閲覧ご注意】動画:ヒトの皮膚に寄生するニキビダニ

  • 4

    世界の英語はほとんど「母語なまり」...日本語英語を…

  • 5

    【動画】ウィリアム王子、家族を「盗撮」したカメラ…

  • 6

    スリランカ、ガソリンほぼ尽きる 給油所に人の波...…

  • 7

    留守のたび荒らされる寝室、隠し撮りに映ったのは「…

  • 8

    ロシア人バレリーナ、死体で発見。ウクライナ侵攻後…

  • 9

    【映像】軍事侵攻後に死んだロシアのバレリーナたち

  • 10

    エリザベス女王、もう我慢の限界! 医師を無視して…

  • 1

    寝たふりする私の横で、私の英語を真似して笑うネイティブたち...その真意に後から気付いた

  • 2

    【映像】飼い主のことが好きすぎる「寂しがり」な愛犬

  • 3

    【閲覧ご注意】動画:ヒトの皮膚に寄生するニキビダニ

  • 4

    【映像】頭部に銃創と見られる傷のあるホホジロザメ

  • 5

    史実はNHK大河ドラマとまったく違う ── 源頼朝が弟・…

  • 6

    【映像】軍事侵攻後に死んだロシアのバレリーナたち

  • 7

    留守のたび荒らされる寝室、隠し撮りに映ったのは「…

  • 8

    【映像】韓国ユン大統領、NATOにまさかのNGカット掲…

  • 9

    【動画】ウィリアム王子、家族を「盗撮」したカメラ…

  • 10

    【映像】多分使わないナイフを運んでいく「強盗ガニ」

  • 1

    寝たふりする私の横で、私の英語を真似して笑うネイティブたち...その真意に後から気付いた

  • 2

    治験中のがん新療法、18人全員の腫瘍が6ヶ月で消失 専門医「前代未聞」

  • 3

    女性を踏み殺したゾウ、葬儀に現れ遺体を執拗に踏みつけ去る インド

  • 4

    【映像】突進してくるゾウの赤ちゃんが「ちっとも怖…

  • 5

    英ルイ王子の「やんちゃ」ぶりで、キャサリン妃に「…

  • 6

    インド人初のK-POPスター誕生へ 4000人から選ばれた…

  • 7

    プーチン「重病説」を再燃させる「最新動画」...脚は…

  • 8

    中国側に「寝返った」ジャッキー・チェン、「父親が…

  • 9

    英ヘンリー王子夫妻、軽い扱いに「激怒」してイベン…

  • 10

    冷遇されたヘンリー王子ついに「称号返上」を検討と…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク日本版ウェブエディター募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中