コラム

先住民族「強制収容所」で子供215人の遺骨発見──それでもカナダが先進的な理由

2021年06月08日(火)18時30分
先住民族の代表と並ぶトルドー首相

先住民族の代表と並ぶトルドー首相(2015年12月8日)  CHRIS WATTIE-REUTERS


・カナダで先住民族の子供が集められていた「強制収容所」の跡地が発見された。

・これは先住民族を「同化」の名の下で迫害してきたカナダ史の暗部を浮き彫りにした。

・ただし、自らの暗部に意識的に取り組む点で、カナダ政府は誠意ある態度を示してきたともいえる。

 カナダで先住民族迫害の歴史が明らかになりつつあるが、それでも過去と正面から向き合おうとするだけ、カナダ政府はまだましともいえる。

小さな遺骨の集団

カナダ西部ブリティッシュコロンビア州で5月28日、かつて先住民族を集めて教育していた寄宿学校の跡地から215人分の子供の遺骨が発見された(日本では「先住民」と呼ばれやすいが、英語のindigenous peopleは「先住民族」が正しい訳)。

なかには3歳くらいの遺骨まであり、現地の先住民族の代表は「想像を絶する犠牲だ」と語っている。

この発見はカナダ史の暗部を象徴する。

カナダではイギリスの植民地だった1874年、先住民族の同化を進めるため、子供をキリスト教に改宗させ、英語やフランス語(ケベック州では公用語がフランス語)で教育を行なう寄宿学校が各地に建設され、その数は最盛期には139校にのぼった。第二次世界大戦後、段階的に縮小されたものの、こうした学校は最終的に1996年まで、いわばごく最近まで運営されていた。

親元から強制的に引き離された子供たちは、粗末な建物での集団生活を余儀なくされ、食料や医薬品は十分でなく、体罰や性的虐待も常態化していた。今回、先住民族のグループが専門家の協力のもと、地中レーダーを用いた調査で、歴史の暗部を明るみに出したのであり、発見された遺骨のほとんどは1900年頃から1971年頃までのものと鑑定されている。

カナダ社会に広がる衝撃

この発見はカナダ社会に大きなショックを与えた。トルドー首相は「これは我々の国の暗い、恥ずべき歴史の一幕を思い起こさせた」と述べ、各地の政府庁舎で半旗を掲げるよう命じた。

その一方で、寄宿学校の約70%を運営していたローマ・カトリック教会の責任も問われている。カナダ政府の先住民族管理局(Indegenous service)のミラー大臣は6月3日、「強制収容所」跡の発見があってもカトリック協会からいまだに公式声明や謝罪が出ていないことを「恥ずべきこと」と述べた。

これに対して、バンクーバーの大司教がSNSに謝罪を投稿したが、バチカンからは反応がないままだ。

近代国家に押し潰された人々

近代以降、国家建設のプロセスで、文化的マイノリティが同化を強制されることは各地でみられた。これは「国民」意識を作るものではあったが、結果的に先住民族などへの差別をさらに強めるものでもあった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story