コラム

アフリカ支援を渋りはじめた中国──蜜月の終わりか

2020年10月15日(木)14時50分

中国の援助で建設されたエチオピアとジブチを結ぶ鉄道(2016年10月5日) TIKSA NEGERI-REUTERS


・これまで中国はアフリカでローンを組んだインフラ整備を大々的に行ってきたが、コロナ禍はこれにブレーキをかけている

・その一方で、中国はインフラ整備以外の形でアフリカ進出を目指している

・コロナをきっかけ中国とアフリカの間にはギクシャクするシーンも見受けられるが、他の国がアフリカへの関与を控えるなか、今後も中国の存在感に大きな変化はないとみられる

中国はコロナによるブレーキなど、自国の都合からアフリカ向けの貸し付けを減らしてきたが、それでもアフリカは中国に見切りをつけられない。

かつてほど気前よくなくなった中国

「人間性がウィルスに打ち勝ち、中国とアフリカの人々がよりよい明日を迎える用意があることを確信しています」。習近平国家主席は6月、アフリカ各国の首脳とのオンライン会議で基調演説をこのように締めくくり、コロナに直面してもアフリカとの強い結びつきが変わらないことを強調した

その一方で、中国のアフリカ進出はコロナによって曲がり角を迎えている。

中国はこれまでアフリカで道路、鉄道、港湾などのインフラ建設を大規模に行い、そのための資金のほとんどは相手国へのローンで賄ってきた(いわゆるパンダローン)。これはユーラシア大陸からアフリカ大陸にかけての「一帯一路」構想に沿ったものだ。

ところが、この数年、中国は以前ほど気前よく貸付を行わなくなった。その最大の原因は米中貿易戦争により、中国自身の経済にブレーキがかかったことにある。

しかし、それだけでなく、多額のローンが「債務のワナ」をもたらすという批判が国際的に噴出した(その危険性については専門家の間では10年も前から言われてきたが)ことや、さらにアフリカ側の汚職や非効率によって当初の期待ほどの成果が望みにくくなったことなども無視できない。

こうした背景のもと、コロナ以前からすでに中国は、例えば472キロメートルに及ぶ長距離鉄道を建設したケニアで、別路線の鉄道建設のための36億ドルの融資の要望が出たことを断ったといわれる。また、親中派の代表格ともいえるジンバブエでも、昨年までに約13億ドル相当の援助が停止されたと報じられている。

コロナで中国経済も大きなダメージを受けたことを考えると、この傾向に拍車がかかるとみてよい。

中国は債務を放棄するか

その一方で、これまでに積み上がった中国の債権は、基本的にそのままだ。

6月のオンライン首脳会談で習近平国家主席は、アフリカ各国首脳に対して、2020年末までに満期を迎える無利子ローンの返済免除を示唆した。これに関して、中国政府の経済政策にも影響力をもつ北京大学の林毅夫教授は、返済免除の対象がさらに増えると見込んでいる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story