コラム

アフリカ支援を渋りはじめた中国──蜜月の終わりか

2020年10月15日(木)14時50分

とはいえ、中国による債務放棄を過大評価するべきではないだろう。

中国はコロナ以前から部分的に債務放棄に応じており、2000年からのその総額は40億ドルにのぼる。中国政府はしばしば、これを「債務のワナ」批判を否定する根拠にしてきた。

ただし、これまでの免除額は中国の貸付額からみて決して大きくない。中国・アフリカ関係の世界的権威の一人、ジョンズホプキンス大学のデボラ・ブラウチガム教授は、2000年から2018年までに中国がアフリカに貸し付けたローンの総額を1520億ドルと試算する。これに照らすと、中国がこれまでに免除した債務は全体の3%にも満たない。

だとすると、中国のいう「債務を免除してきた」は、ウソとまではいえないが、かなり大げさな表現といえる。そのため、今後とも中国が大規模な債務放棄に向かう公算は小さい。

アフリカの静けさを生むもの

ローンが頭打ちになり、債務放棄があまり進まないことから、アフリカで中国の存在感が低下するのでは、という見方もあるだろう。

しかし、コトはそう単純ではない。

習近平国家首席とのリモート首脳会議でアフリカ各国首脳は、むしろ中国の協力に謝意を示している。

コロナ蔓延をきっかけにアフリカでは反中感情がそれまでになく高まり、中国に滞在していたアフリカ人留学生が差別的に扱われた問題が火に油を注いだ。

それでもアフリカが中国との関係を重視せざるを得ないのは、たとえローンが頭打ちになっても、それでも中国ほどアフリカに資金を回す意思・能力のある国が他にないからだ。

例えば、習近平は6月のアフリカ諸国首脳とのオンライン会議でアフリカ疾病管理予防センターの本部を新たに建設することを約束。さらに、中国で開発中のコロナワクチンが完成すれば、最初の供給地の一つにアフリカが入るとも明言した。

それ以外にも、コロナ蔓延を受けて中国からはこれまでにアフリカへ医療物資などを含めて28億ドル分の支援が提供されている。

これに対して、例えばアメリカ政府のアフリカ向けコロナ支援は6月段階で3億6110万ドルだったが、その後も大幅に増えてはない。他の西側先進国も内向き志向が強まるなか、海外への支援は後回しになりがちだ。日本でも、この状況で「アフリカ支援を増やすべき」という意見にどれだけ支持が集まるだろうか。

つまり、これまでと全く同じとはいかなくとも、アフリカは基本的に中国との関係を重視せざるを得ない。

中国のシフトチェンジ

もっとも、中国はただ現状を維持しようとしているのではなく、これまでよりさらに踏み込んだアプローチを目指しているとみられる。そこで中国の「隠し球」になるのが、中国の民間企業だ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

8月米卸売在庫横ばい、自動車などの耐久財が増加

ビジネス

10月米CPI発表取りやめ、11月分は12月18日

ビジネス

ミランFRB理事、12月に0.25%利下げ支持 ぎ

ワールド

欧州委、イタリアの買収規制に懸念表明 EU法違反の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 3
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story