対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
Iran’s targeting of airport, ports and hotels in reaction to US strikes has forced Gulf nations onto front lines of a war they want no part in
空爆を受けて煙を上げるドバイのホテル。動画からのスクリーンショット(2月28日) Majid Asgaripour/WANA (West Asia News Agency) via REUTERS
<米国とイスラエルによるイラン攻撃で、戦争を望まなかった湾岸諸国が中東紛争の矢面に立たされた>
ペルシャ湾岸の米国の同盟国が、長らく避けようとしてきた事態に直面している。拡大する中東紛争の最前線で、その矢面に立たされることだ。
米国が自ら選んだ戦争――世界の多くが侵略戦争と呼ぶ戦争――に引きずり込まれ、湾岸協力会議(GCC)加盟6カ国すべてがイランの報復攻撃を受けている。
バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)では軍事施設が攻撃を受けただけでなく、民間インフラも標的になっている。空港や港湾、ホテルも狙われた。
米国とイスラエルの空爆に対するイランの対応は、これまでとは規模も範囲も大きく異なる。2025年6月の12日間戦争では、イランが攻撃したのはカタールの米軍基地1カ所だけで、しかもカタール政府には事前に通告していた。
だが現在進行しているのは、湾岸諸国の安全保障担当者が長年警告してきた最悪のシナリオだ。イランが西側の同盟国と見なす国々を一斉に攻撃し、意図的に紛争を拡大させる作戦に出た。
中東のリスクを低減するために世界がこれまで積み重ねてきた努力は水泡に帰し、湾岸諸国の台頭を支えてきた独自の魅力とビジネスモデルは危機にさらされている。
生存を懸けた戦い
2023年10月7日にパレスチナ武装勢力のハマスがイスラエルを攻撃して以来、湾岸諸国の政策担当者は、紛争が地域全体に拡大するのを避けようとしてきた。
カタールはイスラエルとハマスの和平仲介を主導し、オマーンは米国とイランの間で同様の仲介を行ってきた。サウジアラビアもイランとの定期的な対話を維持していた。
2024年4月と10月にはイスラエルとイランの間で報復の応酬があり、2025年6月には米国とイスラエルがイランを共同攻撃した。そのたびに中東は全面戦争の瀬戸際に近づいたが、最悪の事態は避けられてきた。
しかし、米国が「エピック・フューリー(壮絶な怒り)」と名付けた今回の軍事作戦の開始後のイランの行動は、12日間戦争の際の抑制的な姿勢が完全に放棄されたことを示している。
イラン・イスラム共和国はいま、追い詰められ、生きるか死ぬかの覚悟で戦っている。近隣諸国に攻撃を拡大したのもそのためだ。湾岸諸国が米国に戦争終結の圧力をかける可能性に懸けているのだ。地域紛争が長期化すれば、連鎖的なコストが増大する。米国もそれは望まない。
湾岸諸国はまた、イランにとってよく知った標的でもある。イランには米国本土を攻撃する能力はないが、湾岸地域に集中する米軍基地はイランの弾道ミサイル戦力の射程内にある。
湾岸諸国のイメージに打撃
紛争の最初の2日間に湾岸諸国の標的に対して行われたイランの攻撃の規模は、2025年6月とは桁違いだ。
最初の2日間だけで、イランは湾岸諸国に対して少なくとも弾道ミサイル390発とドローン830機を発射した。昨年、カタールのアル・ウデイド米空軍基地に行った報復攻撃では、弾道ミサイル14発を発射しただけだ。単一目標への、一度きりの攻撃だった。

湾岸諸国の防空システムはこれまでのところ、イランから飛来したミサイルの大半を迎撃しており、実際の被害や死傷者は数十人規模にとどまっている。
しかし攻撃は、UAEのドバイとアブダビ、カタールのドーハといった湾岸都市のイメージに深刻な打撃を与えた。
近年、湾岸諸国は湾岸地域を安定のオアシス、生活や仕事の拠点としての安全な場所として売り込んできた。
とりわけドバイは、ビジネスと観光の拠点として自らを強く売り出してきた。カタールや他の湾岸諸国の経済も、大規模な会議やイベントの継続的な開催に大きく依存してきた。
バーレーン、ドバイ、アブダビ、クウェートの空港や、バーレーンやドバイのホテルという民間インフラやソフトターゲットを狙ったイランの攻撃は、安全で安心な湾岸都市というイメージを覆すものだ。
こうした標的の選択は、湾岸諸国の指導者たちが戦争の痛みを直ちに感じるようイランが意図的に計画したものである可能性が高い。
その後イランはさらに、カタールにある世界最大のLNG生産拠点ラス・ラファンやサウジアラビアにある世界最大級の石油精製・輸出拠点ラス・タヌラを攻撃した。互いのエネルギー施設を攻撃しないという暗黙の了解を破るエスカレーションだ。
国家の最重要インフラに対する攻撃はイランが「レッドラインを越えた」ことを示すとして、カタールは3月2日、これまでの仲介役としての立場を捨て、飛来したイランの戦闘機2機を警告もなしに撃墜した。
湾岸諸国の間では、さらなるエスカレーションとして、この地域の水不足を克服するうえで極めて重要な海水淡水化施設が標的になる可能性があるとの懸念が広がっている。

エスカレーションに脆弱な体質
石油とガスの埋蔵量、そして国際海運と航空の要衝という地位によって世界経済の重要拠点となってきた湾岸諸国は、イランによるエスカレーションに対して特に脆弱だ。
ドバイ、アブダビ、ドーハは、湾岸での乗り継ぎで世界中のどの2都市も結ぶことができる「スーパーコネクター」として機能する航空会社の構築に巨額の投資を行ってきた。
国際旅客数で世界最大のドバイ国際空港に対する2月28日のドローン攻撃は、世界の航空業界を支配するようになったこのハブ空港にとって、イランの非対称的攻撃は大打撃となった。
すでにカタールとUAE、さらにバーレーンとクウェートの空域が閉鎖され、数万人の乗客が足止めされており、空の交通はCOVID-19パンデミック以来最大の混乱に直面している。
地域のサプライチェーンに不可欠な貨物輸送も大きな影響を受けている。ホルムズ海峡を通過する海上貿易も中断された。
昨年の12日間戦争では、エネルギーインフラが大きく標的とされていないことが次第に明らかになり、原油価格や海上保険料の急騰は落ち着いた。しかし今回はその逆で事態はどんどん悪化している。
危機と不確実性
しかし湾岸諸国の最大の懸念は経済ショックではなく、戦争拡大による存立リスク、地域の安全保障そのものの崩壊だ。イラクによるクウェート侵攻で始まった1990〜1991年の湾岸戦争以来、この地域がこれほど大きな危険と不確実性に直面したことはない。
そして、それこそがイラン指導部が期待するところだ。湾岸全域への攻撃は無計画なものではない。紛争を拡大させ、米国と湾岸のパートナーにかかるコストを大幅に引き上げるのが狙いだ。
地域各国の首都を攻撃することにはイランにとっても大きなリスクを伴う。報復を受ける可能性があるし、近年は米国との距離が広がっていた湾岸諸国を、再びワシントンの陣営へ押し戻してしまう可能性もある。
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Kristian Coates Ulrichsen, Fellow for the Middle East at the Baker Institute, Rice University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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