コラム

テキサス銃撃を「テロ」と認めた米当局──日本も無縁でない「身内のテロ」

2019年08月06日(火)13時02分

犯行直前に「ヒスパニックの侵略からアメリカを守る」とネットの掲示板に書き込みをしていたパトリック・クルシアス容疑者 Courtesy of El Paso Police Department/Handout via REUTERS


・テキサス州エルパソで発生したスーパー銃撃事件は白人至上主義者によるヒスパニックへの攻撃とみられる

・こうした犯罪は通常「ヘイトクライム」と呼ばれるが、アメリカ司法省はこの事件を「テロ」と認めた

・ナショナリズムの高まりは「身内のテロ」を覆い隠しやすくするが、今回のアメリカ司法省の判断は白人至上主義者によるテロがもはやないことにできないレベルに達したことを象徴する

テキサスでの「テロ」

8月3日、テキサス州エルパソで発生したスーパー銃撃事件は20人以上の死者を出す惨事となった。

犯人として拘束された21歳のパトリック・クルシアス容疑者は、犯行直前にインターネット上の掲示板に「ヒスパニックの侵略からアメリカを守る」という趣旨の書き込みをしていた(エルパソはメキシコとの国境に隣接し、ヒスパニック系が住民の約80%を占める)。

さらに、2月にNZクライストチャーチで発生した、49人の犠牲者を出したモスク襲撃事件の犯人ブレントン・タラント被告を支持する書き込みもあった。

人種や宗教を理由とするこのような事件は一般的に「ヘイトクライム」と呼ばれる。

ところが、アメリカ司法省は今回の事件を「国内のテロ事件として扱っている」ことを明らかにした。白人至上主義者による無差別殺傷をテロと認めたことは、アメリカ政府の姿勢の変化を表す。

覆い隠される「身内のテロ」

白人によるテロは欧米諸国で新たな脅威として浮上しつつある。例えば、アメリカでは2008年から2016年までの間に、イスラーム過激派によるテロが63件だったのに対して、白人至上主義者によるものは115件だった。

ところが、これまで欧米諸国では、白人右翼テロへの警戒や関心が必ずしも高くなかった。

各国ではナショナリズムと排外主義の広がりにより、外国人の不法行為や関係のよくない国のマイナスの要素が大々的に報じられやすくなる一方、その逆は覆い隠されやすい。

その象徴は、2018年2月にフロリダ州の高校で発生した、17人が犠牲となった銃乱射事件でのトランプ大統領のコメントだ。この事件の際、トランプ氏は犯人を「狂った人間」とよび、「教師が銃で防戦するべき」と持論を展開した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story