コラム

テキサス銃撃を「テロ」と認めた米当局──日本も無縁でない「身内のテロ」

2019年08月06日(火)13時02分

銃所持の問題はさておき、この主張は事件の犯人ニコラス・クルーズが白人至上主義に傾倒していたことや、犠牲者に数多くの有色人種がいたことなどを割り引いたもので、「個人の犯罪」に矮小化する論理といえる。このように、ナショナリズムの高まりは「身内のテロ」をないものと扱いやすくする。

なぜテキサスの事件は「テロ」になったか

その意味で、アメリカ司法省がテキサスの事件をテロと認めたことの意味は大きい。

「政治的、イデオロギー的な理由のために相手を脅すための暴力」と字義通りに考えれば今回の事件をテロと呼ぶことは当然だ。ただし、トランプ氏の支持者に多い白人至上主義者にとっては面白くないだろう。それにもかかわらず、司法省がテキサスの事件をテロと認めたのは、白人至上主義を取り巻く状況の変化を反映している。

これまで白人至上主義者はイスラーム過激派と比べて国際的なネットワークに乏しく、イデオロギーの拡散や支持者のリクルートに限界があった。

ところが、最近では「白人世界を有色人種や異教徒の侵入から守るべき」という主張を掲げるアイデンティタリアン運動がヨーロッパをはじめ、白人が多い各地で支持者を増やしている。クライストチャーチ事件のタラント被告もその影響を受けていたが、アイデンティタリアン運動はアメリカでも普及しつつあり、クルシアス容疑者もこれに感化していた可能性は高い。

その勢力の拡大にともない、当局による取り締まりも強まっており、例えばドイツでは今年7月に連邦憲法擁護庁がアイデンティタリアン運動を「極右過激派」に指定。オーストリアでは昨年4月、アイデンティタリアン運動の幹部たちが家宅捜査された。

テキサスの事件をアメリカ司法省がテロと呼んだことは、このように欧米諸国で「身内のテロ」がもはや覆い隠せなくなったことを象徴する。

「表現の不自由展」でのテロ

日本に目を転じると、銃撃などの明白なテロではないにせよ、「身内のテロ」が覆い隠されやすい点では諸外国に共通する。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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