コラム

モルディブ大統領選挙での親中派現職の敗北──それでも中国の「楽園」進出は止まらない

2018年09月27日(木)16時00分

これらのパートナー候補があることに加えて、中国のローンによる巨大プロジェクト建設が巨額の財政赤字に結びつき、これがモルディブ政府を従わせる「債務の罠」になっているという批判が野党側からあがっていたことは、政権交代で中国が「おとなしくなった」要因といえる。

中国はモルディブ進出を控えるか

とはいえ、中国が「一帯一路」のルート上の要衝であるモルディブへの進出そのものを諦めることも考えにくい。

中国が支援していた政府が選挙で敗れることは、これまでにもあったことだ。その場合でも中国が進出を諦めることはほとんどなく、むしろ非難が高まり、親中派の政権が倒れた時、一度は静かになっても、時間をかけて懐柔を目指すこともある。その象徴的な事例が、アフリカのザンビアである。

ザンビアでは2011年の大統領選挙で、当時のバンダ大統領と中国の癒着を批判し、「中国企業を追い出す」と息巻いた野党のサタ候補が勝利。これは中国よりの歴代政権のもとで広がっていた反中感情を露わにしたものの、結局サタ大統領のもとで中国企業が追い出されることはなかった。

アメリカの名門ウィリアム・アンド・メアリー大学の調査によると、大統領選挙に向けてバンダ政権に中国が協力を惜しまなかった2011年、中国のザンビア向け援助は約3億6757万ドルだった。翌2012年、これは2億5798万ドルに減少したが、2013年には3億945万ドルと増加に転じた。

胡錦濤国家首席(当時)はサタ大統領との直接的な会談を控えながらも、中国政府はサタ政権の要人との接触を続け、実質的に関係を維持した。その後、サタ大統領が2014年に病没したこともあり、中国はザンビアでの影響力をその後も維持している。

反中感情と協力は別

親中派政権を批判した勢力が権力を握っても、中国の隠然とした影響力が残りやすいことは、進出先の国の側にも理由がある。その単純な、そして最大の理由は、中国への反感があったとしても、他のパートナー候補のなかに中国に匹敵する額の資金協力をできる国はほとんどないことだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、ディスインフレ確信も「予想より時間かかる」

ワールド

パレスチナ国家、一方的承認でなく交渉通じた実現を=

ビジネス

米4月中古住宅販売、前月比1.9%減の414万戸 

ビジネス

米S&Pの年末予想中央値5300近辺、調整リスクも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

  • 2

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 3

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新幹線も参入

  • 4

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 5

    魔法の薬の「実験体」にされた子供たち...今も解決し…

  • 6

    「テヘランの虐殺者」ライシ大統領の死を祝い、命を…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    イスラエルはハマスの罠にはまった...「3つの圧力」…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story