コラム

中国人頼みのカジノは必ず失敗する

2016年12月19日(月)06時44分

Yuya Shino-REUTERS

<カジノ法案が可決されたが、中国を取り巻く状況を考えれば、投資に見合うとは思えない。「美しい国、日本」の良いイメージを悪化させるだけだ>

 新宿案内人の李小牧です。突然だが、私は今かなり怒っている。その原因はカジノ法案の可決だ。私が愛する「美しい国、日本」が台無しになりかねない危機的状況だと言ってもいい。

 12月15日未明、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」、いわゆるカジノ法案が衆院本会議を通過、成立した。同法案はカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備を政府に促す内容で、今後は具体的な法案と制度作りに取り組むことになる。

"解禁"はまだまだ先の話なのだが、報道によると20もの自治体が関心を示しているという。最終的に数をしぼる予定ではあるが、巨大利権があるだけにどの自治体もそう簡単には引き下がらないだろう。下手をすれば日本全国に賭博場が乱立する"カジノ大躍進"になりかねない。

 だが、そもそも日本にカジノは必要なのだろうか。

 私は昨年、家族旅行でラスベガスを訪れたが、あまりいい印象を持てなかった。約20年前に初めてラスベガスに行った時は、街の中心はギャンブル施設でありながら、その周囲を無料でショーを見られる施設などが取り囲んでいて、これは歌舞伎町活性化のヒントにもなると感心したものだ。だが今回は8歳の息子を連れての旅行。まだ小さい子どもにギャンブルの知識を与えたくない。

【参考記事】歌舞伎町ラスベガス化作戦

 その結果、あちこちにあるカジノを避けて移動する、まるで逃避行のような旅となってしまった。これは私だけの悩みではないようだ。通りを見ると子連れの観光客は少なかったように思う。日本も、カジノ目当ての客が増える一方で、家族旅行の観光客は減ってしまうのではないだろうか。

習政権の反腐敗運動でマカオも落ち込んでいるのに

 確かに今、マカオ、シンガポール、韓国など、アジアでは外国人をターゲットとしたIRの建設がトレンドになっている。日本もそこに加わるという意思表示なのだろうが、それはとりもなおさず激しい競争が待っているということでもある。しかも、新規参入するにはタイミングがよくない。

【参考記事】カジノに懸けたシンガポール(1/2)

 カジノ売上世界一を誇るマカオは、2015年の収入が前年比34%減と大きく落ち込んだ。習近平政権が推進する反汚職運動が響いたのだ。日本にとっては、この反汚職運動以外にも、中国経済の先行きや人民元安に伴う資金流出規制、突発的事件による日中関係の悪化など不確定要素が多すぎる。カジノ建設に伴う莫大な設備投資を回収するのには長い時間が必要だが、その間ずっと中国人富裕層がお得意様でいてくれる保証はない。

 長年にわたる経済低迷で日本の財政余力は限られている。限られたリソースを防災など本当に必要なものに振り向けるべきだ。利権に踊らされてカジノに飛びつくのは真の政治家がやるべきこととは思えない。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ高とインフレを楽観視、関税は経済を圧迫へ=E

ワールド

タイ商務相、対米関税交渉に自信 税率10%に引き下

ワールド

イスラエル商都などにミサイル、8人死亡 イラン「新

ビジネス

午後3時のドルは144円前半、中東情勢にらみ底堅い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story