コラム

歌舞伎町ラスベガス化作戦

2009年08月10日(月)12時40分

今週のコラムニスト:李小牧

 本ウェブサイトの人気記事を順位づけする「ウィークリーランキング」コーナーを見ていて、おもしろいことに気づいた。上位に来やすいのは韓国か中国の悪口か(笑)、日本人をほめそやす記事。一時、「世界が尊敬する日本人」に関連する記事が何本もトップ10入りしていた。

 不景気で再び自信をなくしつつある日本人にそんなに励ましが必要なら、私も「李小牧が尊敬する日本人」を発表させていただこう。堂々の第1位は石原慎太郎都知事である。意外に思う人もいるかもしれないが、理由は簡単。彼が04年に始めた歌舞伎町浄化作戦で、この町が安全な歓楽街に変わったからだ。

「ヤクザと風俗の町」だった歌舞伎町は、石原知事の登場で劇的に変化した。今では名物だったヤクザの「パレード」は見られないし、悪質なキャッチやぼったくり店もほとんど姿を消した。ただ、歌舞伎町が新たな街のビジョンを描けているか、と聞かれれば答えは「不(ノー)」である。

 去年の暮れに閉鎖された新宿コマ劇場の跡地利用はまだ決まっていないし、コマ劇前につくられたシネシティ広場も、イベントがあるときはいいが、ないときはホームレスの憩いの場になっている。05年に繁華街の再生を目指す町の憲法として歌舞伎町ルネッサンス憲章をつくったが、集客面ではまだ何もできていない。町の新たな核が見つからないのだ。

■連日連夜のショーで客寄せ

 アイデアがないと嘆いていてもコトは前に進まない。ヒントはある。10年ほど前、初めて旅行でアメリカ・ラスベガスに行ったとき、その町のつくりに驚かされた。町の中心は確かにギャンブル施設だが、その周囲を無料でショーを見られる施設が取り囲んでいて、家族で町を楽しめる仕組みになっていた。

 この考え方を歌舞伎町に当てはめてはどうだろう。1カ月に1回でなく、毎日広場で無料ショーを企画する。歌舞伎町は夜の町だから、ショーは昼ではなく夜にやる。歌舞伎町のアジアでの知名度を生かせば、中国や韓国のスターを呼ぶことも不可能ではない。ジャッキー・チェンがステージに立つだけで、どれだけ集客効果があることか。

 日本全国の祭りを日替わりで歌舞伎町に招待する、という手もある。招待される側にとってもこれ以上の宣伝はない。祭りのエネルギーは必ず町に人を呼び寄せるし、集まった客の財布のヒモもつい緩くなるはずだ。

■歌舞伎町を変えるのは......

 歌舞伎町がホンモノの「歌」と「舞」の町になる、というのがこのアイデアのミソである。ちなみに、個人的にはコマ劇跡地にはエンターテイメントを見ながら食事できるレストランをつくってはどうか、と考えている。中国人観光客を案内するとき、50人が一回で入れる日本料理店がなくて困ることがあるが、コマ劇跡地なら200人から300人を収容できる施設をつくることもできる。

 中国人が無責任なことを言っている、と思わないでほしい。歌舞伎町に関わる皆さんが頭を悩ます気持ちはよく分かる。日本に21年住んだ今も、日本人の互いに協力し合う姿勢やボランティア精神には感心させられる。ただ、難題に直面すると日本人はなぜかとたんに消極的になってしまうことがある。

 ここは一つ、「歌舞伎町人」である李小牧に任せてもらえないだろうか。これだけの大きなショーを連日実現するにはカネだけでなく、困難を押しのけるブルドーザーのような人間が必要になる。中国マフィアや日本ヤクザに揉まれてきた私が、難局にめっぽう強いのはみなさん承知の通りだ。

 手始めに簡単に出来る改革を提案しよう。呼びにくいシネシティ広場をもっと分かりやすい名前、あるいは単に歌舞伎町広場と改名する。それだけでイメージがずいぶん違うはずである。

 報酬はいらない。ただ一連の改革が成功したあかつきには、天安門広場ならぬ歌舞伎町広場に「歌舞伎町の毛沢東」李小牧の肖像をかけてもらえればそれでいい(笑)。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story