コラム

2つの顔がせめぎ合うメガロポリスの魅力

2014年06月23日(月)10時04分

今週のコラムニスト:マイケル・プロンコ

〔6月17日号掲載〕

 外国人にとって、今の東京は非常に暮らしやすい街だ。おいしいチーズやワインが簡単に手に入るようになったのも、その1つ。驚いたことに最近は日本人もチーズの味にうるさいし、花見の席でさえ酒と同じくらいワインがたしなまれている! でもそれだけではない。

 この20年ほどで東京の西洋化は一段と進んだが、それには良い面と悪い面がある。私が15年前より暮らしやすくなったと感じるのは、東京が以前よりオープンになった点だ。今の東京では生き方や働き方について、より多くの選択肢を持てるようになった。ライフスタイルやそれに伴う考え方の幅が広がり、より自由に生きられるようになった。東京は単なる「場所」ではない。それは門戸を広げながら進化し続けるという「発想」でもある。

 もちろん、この街には今もさまざまなしきたりがあり、多くの伝統的な社会の規範が受け継がれている。昔から変わらない考え方に縛られ、世界の他の大都市よりゆっくりとしか変化していかない。

 外国人が東京で生きていくには、そうしたルールや慣習を覚える必要がある。人との交流が複雑になるほどルールも複雑さを増す。店での注文の仕方や電車内での立ち方にもルールがある。

 もっとも私の目には、そうした日本文化の制約と、東京の進歩的で開放的な側面とが常にせめぎ合っているように思える。東京には矛盾した2つの顔があり、自由でオープンな顔と伝統的な顔が、土俵上で時間をかけて仕切りをする2人の力士のようににらみ合っている。

■多様性を包み込むハーモニー

 以前は私が小さな居酒屋ののれんをくぐると、店内にパニックが起きたものだ。この男は日本語を話せるのか、日本食を食べられるのか、居酒屋での立ち居振る舞いを知っているのか、ワインとチーズを注文するんじゃないだろうか......。

 でも最近では、食事や買い物に行っても店はもっとオープンな雰囲気だ。人々が心配するのは外国人である私がスムーズな流れを妨げることではなく、私がその場のよさを満喫できるか。彼らは突き出しの昆布料理の素晴らしさや、新作の眼鏡に使われている先端技術について説明してくれる。私はもはやハーモニーを乱す存在ではない。東京が奏でるハーモニーが多様な人々を包み込んでいるのだ。

 かつて、日本での会話は退屈なものだった。質問されるのは東京の生活に適応できるかという点ばかり。日本で生まれたわけでも、仕事で赴任したわけでも、この地で結婚したわけでもない私がなぜ東京に住むことを選んだのか、大半の人には理解できなかった。

 だが今では、人々は暮らす場所としての東京の魅力を理解している。もちろん慣れるための努力は必要だが、東京暮らしが喜びや驚きにあふれていることを理解し、オープンで自由な町という新たな魅力を誇りに感じている。

 先日、タクシーの車内で東京五輪の準備について運転手と話したときのこと。目的地の品川駅に着いて、無秩序に並ぶタクシーの列について文句を言うと、運転手は「あなたも東京人みたいな考え方するんだね」と言った。これは褒め言葉だと思う。昔なら、彼と私が同じ不満を持つなんてあり得なかったのだから。

 そうはいっても、外国人(と日本人)の自由な生き方を阻む厳格なルールや伝統の縛りに不快な思いをすることもないわけではない。だが、そうした制約の強固さを感じても、今の私は東京にオープンな側面があることを知っている。ライブハウス、小さな映画館、風変わりな流行、予想外の会話、多様な考え方──。

 いつも見えるわけではないけれど、アジア随一のメガロポリスには常に自由で開放的な顔が潜んでいる。だから、私もいつだっておいしいチーズを見つけられるわけだ。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

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