コラム

来日26年目で発見した日本人の大きな変化

2014年04月14日(月)09時00分

今週のコラムニスト:李小牧

〔4月8日号掲載〕

 前回のこのコラムで、私は日本国籍を取得して政治家への道を目指すと宣言した。想定外の内容に「歌舞伎町案内人の冗談に違いない」と、本気にしなかった読者もいるだろう。

 私は合法と非合法が入り交じる歌舞伎町を、時にハッタリを使いながら26年間生き抜いてきた。だが肝心な場面でウソを言ったことは一度もない。帰化申請書類を提出するため、最近は法務局や行政書士の間を飛び回っている。今のところの見込みでは、日本国籍を取得するまで最低でも1年はかかる。立候補を目指す選挙に間に合うか微妙なところだが、いろいろな人に相談しながら何とか間に合わせようと努力している。

 中には「李はNewsweekを自分の政治宣伝に使おうとしている」と、眉をひそめる読者がいるかもしれない。本誌の政治的中立を守るため、今後は選挙や政策に直接関わる内容は控える。ただ今回の決断と、その後帰化に向けて具体的に準備を進めてきたなかで、私は日本人の良さをあらためて発見した。それをここで報告したい。

 私は日本と外交的に対立しがちな中国で生まれた生粋の中国人だ。それが日本の政治家になろうとするのだから、日本人の中から「李はスパイに違いない!」と疑う声が出るのはある程度は仕方がない、と思っていた。実際、前回のコラムが出た後、私に意見を言う日本人はたくさんいた。ただし、驚くべきことに反対する人は1人もいなかった。批判する右翼の街宣車も1台も来なかった。

■外国人に寛容になった日本人

 もちろん面と向かって反対を言える人は少ない。だがネットで批判めいた書き込みをする人もおらず、日本人はみんな素直に応援してくれる。わが歌舞伎町商店街振興組合も「性事家から政治家」への転身に大賛成。歌舞伎町公認候補として選挙を後押しすると言ってくれた。

 昔、在日外国人の参政権に消極的な日本人は、排他的だとか冷たいとか心が狭い、とよく批判された。もちろん外国籍のままの「ガイジン」と帰化して日本人になった「ガイジン」は同じではない。

 それでも、何かと対立する国の出身者も政治家として受け入れよう、という気持ちは確実に広がっている。自分たちも気付かないうちに、日本人は昔よりずっと国際化して、外国人に対して寛容になっている。

 政治家宣言の後、「中国出身者の意見も日本政治に反映する必要がある」という声をよく聞いた。不法滞在も合わせれば、在日中国人は今や100万人。もちろん無視できない存在だが、敵対しがちな国の意見もあえて聞くべき、という日本人の成熟ぶりに多いに感心した。

 親切さは昔と少しも変わらない。詳しく書けないが、ある大政党の最高幹部がコラム執筆後、こちらから何も言わないのに支援を申し出てくれた。「老朋友(古い友人)」である別の政党の国会議員も、国籍取得手続きや選挙戦を陰から応援する、と言ってくれた。中国ならまずカネを要求されるところだ(笑)。

 カネに汚くないのは政治家だけではない。最近、息子が日本の公立保育園を卒園したのだが、保育士たちは卒園式で「これでやっと李さんのレストランに行けます」と話し掛けてきた。彼女たちは地方公務員ゆえ、もし私にごちそうされたらそれが賄賂に当たる可能性がある。だから、あえて私の店に来なかったのだ。

 保育士だけでなく、警視庁新宿署の警察官の友人たちも、同じ理由で営業時間中は決して私の店に足を踏み入れようとしない。中国の警官なら率先してタカリに来ているだろう。

 私が政治家になれば、こんな日本人の素晴らしさをいま以上に中国に向けて発信することができる。そして、それが中国を少しずつ変えていく。このコラムは「性事」中心になるが(笑)。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story