コラム

逆転勝利で高市早苗を「初の女性宰相」へと導いたキーマンはこの人物

2025年10月04日(土)18時30分

簡潔だが明確に国家経営に挑む姿勢を示す

小泉候補は、懸念されていた総裁選中の言動で大きな失点があったという訳ではない。しかし、記者会見・質疑応答で原稿を読み上げる様子に注目が集まり、首相になった後の予算委員会審議を乗り切れるのかを不安視する声もあがった。外国人・移民問題をはじめとする「保守支持層が抱いている現在の懸念」に正面から答えたとも言いがたい。無難な中庸的政策イメージの構築に専念したためだろうか、メッセージは曖昧のまま終わった。ニコニコ動画向けのステマ騒動や、神奈川県連における党員離党問題が大きな騒ぎとなって、勢いが削がれた点も否めない。

これに対して、高市候補は、告示日初日の立会演説会でいきなり、大伴家持の「高円の秋野の上の朝霧に妻呼ぶ雄鹿出で立つらむか」という和歌を詠み上げ、「奈良のシカを蹴り上げるとんでもない外国人がいる」と断言することから選挙戦を始めた。

衝撃を受け、不安を感じた者もいただろう。しかし、SNSの世界では「奈良のシカを外国人が蹴ったり殴りつけていたりする動画」は定番でもある。シカを「神の使い」として神聖視することのない外国人の乱暴狼藉を叱責して回っていた「へずまりゅう」氏は7月の奈良市議会選挙で当選を果たした。SNSを狙ったメッセージはこれ以上にないほどに明確であった。

高市候補は選挙期間中、憲法改正、男系皇統維持、スパイ防止法制定等については明確に賛成の意向を表明する一方で、消費減税を含めた経済政策等は、慎重な物言いに徹する姿勢も貫いた。強硬保守像をマイルド化させる、巧みな主張の取捨選択が支持を広げたと言える。決選投票直前の最終演説は、簡潔だが明確に国家経営に挑む姿勢を述べたものであり、前回のグダグダ演説とは雲泥の差の出来だった。

高市新総裁は今後、国会での首班指名選挙に向けて、国民民主党をはじめとする野党との連立交渉や党内人事に着手する。これまでになく女性政治家が重用されれば自民党の政治文化も変容するであろう。大所帯であった小泉陣営をはじめとする対立陣営を相手にした党内融和は簡単ではないが、悠長なことは言っていられない。27日にはトランプ大統領が訪日する。党内きっての勉強家である高市氏が実際に、どれだけ「自民党の背骨」を入れ直し、日本政治を再生できるかが問われる秋となるだろう。

ニューズウィーク日本版 BTS再始動
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年4月7号(3月31日発売)は「日本企業に迫る サステナビリティ新基準」特集。国際基準の情報開示や多様な認証制度――本当の「持続可能性」が問われる時代へ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米地裁、FRB議長の召喚状差し止めの判断維持 検察

ワールド

イラン上空で米戦闘機撃墜、乗員1人を救助 対イラン

ビジネス

米3月雇用者数17.8万人増、過去15カ月で最多 

ワールド

米政権、「脱獄不能」アルカトラズ監獄再開へ予算 ア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 8
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 9
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 10
    『ナイト・エージェント』主演ガブリエル・バッソが…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story