コラム

「少数派」石破政権はこれから、3つの難題に直面する

2024年11月19日(火)16時13分
石破茂

石破首相は難局を打開できるか Kim Kyung-HoonーREUTERS

<国民民主との連携、政治とカネ、トランプ......窮地の首相の次の一手は?>

第2次石破茂政権が発足した。総選挙での敗北を受けた少数与党政権だ。保守系無所属議員ら6人を自民会派に招き入れたが、それでも自公政権が衆議院で持つ議席数は221。過半数に12議席足りない。石破首相はいかにすれば少数与党政権を維持できるだろうか。今後、3つの局面が問題となるだろう。


まずは当面の国会運営が焦点になる。11月28日に召集が予定されている臨時国会では、補正予算の成立と税制改正、新年度予算案の編成、政治資金規正法の再改正などが議論される。「年収103万円の壁」の見直しなどを求める国民民主党との協議で、自公政権が国民民主党側の主張を丸のみすればするほど予算案否決のリスクは低下する。

しかし所得税基礎控除額の引き上げ、消費減税、ガソリン暫定税率の廃止といった国民民主党側の減税要求は税収減への深刻な懸念をもたらす。自民党内部で「インナー」と呼ばれる党税制調査会の非公式幹部会合で調整し、財務省にのませる従来型の妥結プロセスが、新しい政策決定メカニズムである自公国「部分連合」の協議会で同じように円滑に機能する保証はない。石破首相の党内基盤は脆弱で、予算委員会の委員長ポストは立憲民主党が握っている。

今後の日本政治について、多党並存下で国会審議が熟議化すると楽観視する向きもあるが、カオスが待っているだけの可能性もある。党内外で石破政権弱体化を望む勢力にあらがいつつ少数与党政権を存続させることは容易ではない。むしろ存続させようとすればするほど部分連合を組む国民民主党への依存は高まる。

連立政権維持の難しさ

しかし、野党は野党だ。自公政権への全面協力は支持離れにつながる。協議が煮詰まる局面で国民民主党が部分連合から手を引く事態になれば、その離脱は政権崩壊の引き金になり得る。1994年の細川護熙首相退陣後、非自民連立政権から社会党が離脱して発足した羽田孜内閣は当初から少数与党政権だったが、細川退陣の混乱で成立が遅れていた予算案を成立させるや否や、野党だった自民党が内閣不信任案を提出し、総辞職に追い込まれた。64日間の短命政権だった。

部分連合の代わりに、拘束力を強めるべく自公国連立政権の樹立に踏み切る策もある。しかし、連立政権を維持するのは成立させるよりも難しい。少数与党ではないが鳩山由紀夫・民主党政権が2010年に退陣に追い込まれた要因の1つは、米軍普天間基地の辺野古移設に異を唱えた福島瑞穂消費者相が罷免され、連立政権から社民党が離脱したことで鳩山首相の心が折れたことだった。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story